蜻蛉の願いはキンキラキン 第七章――11
完結長編 > 蜻蛉の願いはキンキラキン - 2013年01月06日 (日)
「村に戻って 鬱金香作りを続けるのか」
蜻蛉が 田吾作に聞いた。
「分かりません。 なんか 気が抜けてしまって」
「あれっ、 訛ってない」
「長い間 ここを離れていましたからね。
相手が訛っていると、 こっちもつい訛が出てしまいますが、 そうでなければ出てきません。
それが 少し寂しいです」
「じゃあ、 これからどうするんだ」
「どうしようかなあ。
わたしは絵を描くのが下手なんですよ。
動物を描いても 犬やら猫やらも区別が付きません。
それなのに、 なぜか鬱金香だけは描けるんです。 鬱金香の絵なら 相当上手いです。
逃避行中に気がつきまして、 描いたら けっこう売れました。
本当に絵描きになっちゃおうかなあ。 …… 鬱金香専門の ……」
虚空の都で、 旅の資金を得ようと 高級旅館に足を向けた。
そういうところでは 絵を買ってくれることが多い。
旅館が買わなくても、 泊り客が買ってくれたりもする。
矢阪という偽名を使った。 村の名前である。
故郷が懐かしかったのだろう。
そのせいで 竹宅堂の隠居が間違えた。
途中で 様子がおかしいことに気がついたが、
高級画材で 思う存分に絵を描かせてくれ、 喜ばれるので、
つい 長逗留をしてしまったという。
竹宅堂には たくさんの絵が残された。
無論、 すべて鬱金香の絵であることは間違いない。
「蜻蛉、 まだ宝珠はありそうか。 在ったとしても残り少ないぞ。
おまえが持っているのが、 黒、 茶、 緑。
星白が 青と 他に最低一つは持っているはずだ。
残りは最大限三つだな。 今度こそ 先を越さねば」
「うん。 まだあると思う。 そんな気がする。
……見たかったなあ、 青い鬱金香。
♪ 咲いた~ 咲いた~ 鬱金香の花が 並んだ~ 並んだ~ 赤 白 黄色
……なんか、 語呂が悪くないか。
鬱金香というのが歌になりにくい音だよな。
名前を変えたらいいのに。
そうだ! チューリップなんて可愛い名前だと思わないか。 そうしよう」
蜻蛉の思いつきのせいで、 鬱金香は 以後チューリップと呼ばれることになった。
嘘くせ~。
第八章につづく
戻る★★★次へ

