RSS

蜻蛉の願いはキンキラキン 第七章――10



 いつも堂々としている権兵衛が、 珍しく 自信無さそうに返答に困っていると、
 こっそり逃げ出そうとしている男がいた。
 権兵衛の家の作男だ。

「おい、 こら、 どこさ行くだ」
 いつの間に来ていたのか、 黒ずくめの自称絵描きが、 作男の襟首を捕まえて怒鳴った。
「おらあ、 知んねえ。
 旦那に言われて 鬱金香様運びを手伝っただけだ。
 あとは何にも知んねえ。 勘弁してけろ」
 作男の告白に 騒然となった。

「どういうこった。 権兵衛さーが盗んだだか」
「んだば、 田吾作は犯人で無えんだな」
「おらあ、 旦那に言われたことをやっただけだ。 本当にあとは知んねえ」
 権兵衛は 青くなっていた。
 もはや 言い逃れは出来そうになかった。
 詰め寄られて、 女神像の盗難を白状した。

 田吾作が 肥料を仕入れるために遠出したことを知って、 罪を擦り付けることを図ったのだ。
「しかし何でまた、 村一番の名人がそんたら事をするだ。 訳わがんねえ」
 村人が なおも不思議がっていると、

「おらの青い鬱金香が目当てだったか」
 黒ずくめの男が 頭巾を取った。
「おお、 田吾作でねえか」
「田吾作、 帰って来ただか」
「あっ、 乗合馬車の指名手配犯」
 最後の声は蜻蛉だ。

「青い鬱金香は、 田吾作が作っただか」
「そうだ。
 肥料の買い付けに出ている間に、 大泥棒として指名手配にされていた。
 驚いて眞籠国に逃げた。
 逃げているうちに、 青い鬱金香の噂を聞いただ。
 はめられたかもしれないと分かって、戻ってみる気になったのっしゃ。
 あれは未完成だった。 不安定で 色が定着していなかった。
 心配したとおりになっていた」

「……そ、 そんな」
 権兵衛の顔が さらに青くなる。
「村一番の名人といわれるだけじゃ 足りなかったのか」
 田吾作は、 権兵衛を睨んだ。

「違う!  口惜しかったんだ。
 わしは 青いのをこの手で作りたかった。 夢だった。
 おまえが秘密にしていた畑を偶然見たとき、 青い花が咲いているのを見てしまって逆上した。
 何で わしに出来ないことを、 変人のおまえがやってしまうんだ。
 何で わしじゃないんだ。
 口惜しくて 口惜しくて、 いてもたってもいられなかった」

 盗んだ女神像は、 麻袋に入れて 納屋に転がしてあったのだが、
 処分に困って 土手の補強工事の際、 こっそり埋めた。
 田吾作の家に残された球根の中に 『青空』と書いてあったものがあり、
 それを増やして 自分の畑に咲かせると、 当然の事ながら大評判になったが、
 心の葛藤と罪の意識から、
 青い鬱金香はおろか 他の鬱金香でさえ見ることが怖くなったのだ。

 権兵衛の畑から 精彩が消えた。
 青い色と 名人の腕も 消えた。

「………… 悔しいのはおらだ。 あれは 思わぬ偶然で出た色だ。
 頑張ったが色が不安定で、 おらの手に負えなくなってただ。
 権兵衛のとっつぁんに相談しようと思ってた。
 だのに、 色が消えちまったんだってなあ。
 もう無理だ。 青い鬱金香は 二度とできねえ。
 おらにとっても夢だっただに。 それが悔しい」

 田吾作の言葉に、 権兵衛が号泣した。



戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア