FC2ブログ
RSS

蜻蛉の願いはキンキラキン 第七章――6



 早咲きの一般的な品種は、 あらかた 球根の掘り出しが終わっている。
 畑に残っているのは、 遅咲きの希少な品種が多い。
 金になるのは、 そちら の方だ。
 洪水になってしまえば、村の財産が 根こそぎ駄目になるということだ。
 血相を変えているのも無理はない。

「手伝おう」
 黒ずくめが申し出ると、
 世界を救うつもりの星白だって黙ってはいない。
「ぼ、 ぼ、 僕も手伝います。 村を救わなくては」
 隣で一郎も頷く。

 真っ先に飛び出していった黒ずくめに、 村人があわてて声をかける。
「ちょっと、 黒い人。 そっちじゃねえ。
 そっちは 去年大掛かりな補強工事をしたから大丈夫だ。
 もう一曲がり 下流が危ない」
 たくさんの麻袋と土を掘る道具を乗せて、 大八車が走り抜けた。
 宿にいた男たちは、 いっせいに後に続く。

 静かになった宿に取り残されて、
 桜は、 三和土に転がっていた一本の鍬を拾い上げた。
「蜻蛉、 好機だ。 ちょうどいい。 これを借りよう。
 夜が開けたら 少しは明るくなるだろう。
 星白は当分忙しい。
 今のうちだ。 掘って、 掘って、 堀まくるのだ」
 村の一大事に乗じて、 こっそりと自分たちの目的を果たそうとする二人であった。
 

 いつもは ゆったりと静かな流れが、 狂ったように暴れていた。
 濁流が激しく叩きつける岸辺の一角から 土が抉(えぐ)り取られ、 逆巻く流れにさらわれていく。
 村の家々から出てきた男たちに混じって、
 丈夫そうな女衆も 作業を照らす明かりを用意したり、 土嚢を作る手伝いをしたりしていた。
 みんな泥だらけだ。

 旅人の三人も、 指示を仰いで作業に加わった。
 黒ずくめの男は手際が良い。
 慣れぬ星白と一郎とは違い、 村人に負けぬ働きを見せた。
 川辺の土手が 土嚢で補強されていく。
 流れに負けたら最後の 危うい競争だ。

 小雨を通して 日の光が届き始め、
 作業が楽になってからも、 しばらく闘いは続いた。
 土嚢が積み上がったものの、 流れの勢いは なかなか収まる気配がない。
 星白と一郎は、 泥人形と化して倒れこんだ。

 その様子を見つけた宿の番頭が、 二人に近寄った。
「お客さん方は宿に帰って 休んでけろ。
 ここまでやったら、 後は見張りを残して、 俺らもいったん引き上げるだで」

 ありがたく受け入れ、 宿で体を洗って 腹ごしらえをした二人は、
 蜻蛉と桜の姿が見えないことに気がついた。

「ご婦人方はどうしているのだろう。 姿が見えないようだ。
 星白、 今のうちに あっちの用事も済ませたらどうだ」
「そうですね。 僕、 ご飯を食べたら元気が戻りました。 いきましょう」

 宿の裏に回ると、 洗い終わって立てかけられている鍬が置いてあった。
 それを 下男に借りて歩き出す。
 土手の補強に向かったのとは 反対の方角だ。



戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア