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赤瑪瑙奇譚 第二章――3


 翌日から ユキアとホジロは、 適当な誰かの後にくっついて、 ぶらぶらと見物して歩いた。
 町や村のたたずまいは、 まだ繕いきれずに貧しさを露呈していたが、 明らかな活気が満ちていた。
 長い戦が終わったことを実感したのだろう。 雑多な印象の中に 笑顔が垣間見える。

 宿屋は 一行の貸し切りになっていた。
 調査から帰ってきた団員は 広間に陣取って、 資料のまとめと情報交換の話し合いに忙しい。

 ある大雨になった日、 コクウの職人たちを宿に呼んでの聞き取り調査になった。
 ホジロは 相変わらず ぼうっとした顔でうろつき、 あちこちで 話を聞きかじっている。
 ユキアは どうやったらカムライ王子を確認できるだろうかと思案していた。

 噂を聞いて 野次馬半分にやって来た、 特に意見の無い職人たちが、 雨を眺めながら 世間話を始めた。
「アトメが 春の離宮を修復するってのは 本当なのか。
 あいつ、 からくり作りは得意だが、修復なんて 一番やりたがらないと思ったが」
「本当らしい。 メギド様に頼まれたようだ。 修復にしちゃあ 集めてる材料が 大げさすぎるがな。
 変にしなきゃいいが……。 そもそも あそこは 修復が必要なんだろか」
「しかし、 なんでメギド様が依頼するんだ。 城の係りが いるだろうに」

 ユキアは つい気になって、 話に割り込んだ。
「あの、メギド様って どういう方なのですか。
 わたしたちも お世話になっているのに、 よく存じ上げなくて。
 ずいぶんと 精力的に 活動なさっておいでのようですけど……」
「カリバネ王の 叔父さんです」
 王位継承権があって、 目立ちすぎると、 普通は 王位を狙っているのか と勘繰られるところだが、
 子どもが 女の子ばかり なのだという。

「俺も 十人までは数えてたが、 今、何人姫様がいるやら 誰も知らないんじゃねえか」
 一族に 男ばかりが生まれる家に、 たった一人出来た女の子を、 無理やり側室に迎えたが、
 生まれてきたのは やっぱり女ばかり。
 側室の実家では、 外孫とはいえ 女の子がたくさん出来て嬉しいと、 大喜びで 可愛がっているらしいが、
 メギド公は がっかりだった。

「でも、 それだけいらっしゃれば 婿を取るとか、 有力者に嫁がせて 勢力拡大するとか、
 やりようもあるでしょう」
 ユキアの話に 大爆笑が返ってきた。
「会ったことがあるなら 知ってると思うが、 メギド公は めっぽう無骨な親父で、 奥様もご側室も 無骨な方々。
 姫君たちも 無骨な上に不細工 ときちゃあ 、無理な相談だ。 全員一人身だ。
 末っ子姫が、 やっとこさ 十人並みに毛の生えた程度ってとこかな。
 公も老齢だし、いずれにしろ もう遅い」

 そこまで言って 大丈夫なのだろうか。
 一家総出で舐められている気がするのだが、 嫌われているようでも無さそうだ。


 その日も 帰ってきた団員は 広間に陣取って、 賑やかに仕事をしていた。
 宿の者たちも、 お茶を持って来いの 紙を買ってきてくれのと こき使われていて、
 入り口近くにある 待合室なのか 談話室なのか、 間仕切りも無い 小さな部屋は案外に 人目が無い。
 ユキアとホジロは、 そこに向かったが、
 珍しく外から帰ってきたタヅムラ卿が、 二人を見つけてやってきた。

「ホジロ、 面白いものは 見つかったか」
「まだ 金物が出回っていませんね。 少なすぎるようです。
どこかに 大量の武器が 保存されているのではないかなあ」
「大量?」
 ユキアが 聞き返す。

「ユンは 人を切ったことがある?」
「有難いことに、 まだ無いわね」
 少ない経験だが、 敵の武器を叩き落したり、 持ち物や衣服を切り裂いたりで、 大抵は 片がついてきた。
 別荘での 立ち回りでも、 カムライが戻ってきた為、 切るところまでは いっていない。

「人間の体って、 あぶら だらけなんだ。
 鍛え上げて 筋肉しかない体は 一見強そうだけど、
 いざ不測の事態に落ち入ると 生物としての弱さが露呈する。
 身体は 脂肪を溜め込むように出来ているんだ。
 だから、 人を切ると 脂が刃に纏わり付いて、 切れ味が たちまち落ちる。
 研いで落さないと 切れ味は戻らないし 錆びてしまうから、 長い戦では 予備が欠かせない。
 切るだけでは存外死なないから、 止めを刺すには 突く武器が有効だし、
 場合によっては 叩き割る重い武器が 役に立ったりするし、 剣一振りでは 持ちこたえられない。
 戦って、思いのほか大量の武器が無いと 長くは 続けられないんだ。
 もちろん 城には たくさんあるだろうけど、 城の武器庫では足りないほどに在ってしかるべきなんだ。
 鋳潰して 他の金物に転用されている様子もないようだし、
 まだ武器のままで どこかに保存されているかもしれない」

「じゃあ、 メギド公が言っていた 『見られて困るもの』 って、 それかしら」
 タヅムラの物問いたげな顔に、 メギド邸で うっかり立ち聞きしてしまった内容を説明した。

「それにしても、 何をこそこそ隠すのだ。 武器が他国に秘密なのは 当たり前だ。
 今日は 城に挨拶に行ってきた。
 カリバネ王は気さくな方で、 自ら案内してくださったが、
『ここから先は武器庫だから 見せられぬ』 と堂々とおっしゃった。
 他国に知られたくない事は、 見せられない と言えばいい話だろう。
 我らは 間諜に来たわけではない。 それなら もっと目立たない奴を選ぶ。
 それに、 調査団の連中は 役に立つが 手懐けられないぞ。
 何だろうな。 ……あっ、 そうだ。 ホジロは カムライ殿下を知っているのか」

 思いもかけぬ展開に、 二人は目を見張った。


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コメント
52: by ポール・ブリッツ on 2012/05/05 at 22:07:24 (コメント編集)

剣とは殴るものです。斬るものではありません。というスタンスで長編ファンタジー書きました。そしたらものすごく血なまぐさくなりました。経験者語る(笑)。

53:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/05/05 at 23:44:50 (コメント編集)

日本三大仇討の一つ 鍵屋の辻の決闘で、荒木又右衛門は予備の刀を何本も用意していた、という話もあります。
その時、愛刀を折ってしまい、新刀を使った事を非難されたりもしたようですが、しょうがないでしょ。
折れちゃったんだから。

太平洋戦争の体験者の証言だと、日本刀は折れるより曲がることが多かったらしい。
鋼の板を切って研いだだけの いわゆる昭和新刀は、古刀よりも折れにくくて使い勝手が良かったという証言もあるとか。
昔、うちの物置からも、錆びた刀が山ほど出てきたらしい。

こういう事を書いている私は ジジイか!

そういえば、鍵屋の辻騒動の発端は,BLですよ、奥さん。

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