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蜻蛉の願いはキンキラキン 第六章 むらさき戦争



                    追記がございます。


                     第七章につづく




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 井中町の警邏本部を出てから、 星白は迷走していた。

 木土に向かうかと思えば、 突然引き返し、
 まもなく都というところで、 立ち寄りもせずに 行き先を変えた。
 そうしてたどり着いたのが、 真砂州にある 大きな港町だった。

 多くの船が行き交い、 様々な国の船員たちや荷物で溢れかえる港の裏通りに、
 小ぢんまりとした一膳飯屋がある。
 夫婦二人で営む 気楽な店だが、 近所で問題になっている店だった。
 そうとは知らず入った星白と一郎は、
 狭い店内に腰を落ち着けると すぐにそれを見つけた。

 調理場を仕切るように置かれた 横長の帳台。
 その端に転がっている 紫宝珠。

「あっ!」
 星白が声をあげて指差すと、
 中年の体格が良い親父は 無造作に放ってよこした。
「ほい、 お客さんの忘れ物だったんかい。
 よかった、 持って帰ってくれ」
 客の忘れ物と思われて、 邪険に扱われていたようだ。
 料理の煙のせいか、 薄汚れている。

 一郎がにっこり笑って、 定食を二つ注文した。

 ところが、 料理に取り掛かってすぐに、
 親父と顔も体格もそっくりなおかみさんとが、
 原因も定かでないほど些細なきっかけで 喧嘩を始めたのだ。
 みるみるうちに 双方が頭に血を上らせて、 怒鳴り声が当たりかまわず響き渡り、
 皿や茶碗や 果てはまな板包丁まで飛び交う騒ぎになった。

 星白と一郎は 逃げ回りながらも、
 驚いて止めに入ろうとしたが 何の役にも立たなかった。

 扉をぶち破り、
 通りに転がり出て、
 戦闘はさらに激化していった。
 ただならぬ騒ぎである。

 通りすがりの通行人も 近所の人間も、
 物陰に隠れて 遠巻きに見守るばかりだ。

「またはじめやがったか。 いいかげんにして欲しい。 近所迷惑もいいとこだ」
 隣のすし屋から 恐々覗いて文句を言う声がしたが、 顔は もはや諦めているように見える。
「あのう、 いつもこんななんですか」
 星白が聞くと、
「今日はまだ ましなほうだ。
 おかみさんが、 大量の醤油を 亭主の頭からぶっ掛けた時なんか、
 あたりに醤油の臭いが染み付いて、
 しばらくの間、 匂いが抜けずに往生した。
 俺らは、 それを『むらさき戦争』と呼んでいる」

「もう喧嘩はやめましょうよ。 仲良く暮らしてください。 お願いしますう」
 星白の 心からの叫びに応じて、 紫宝珠が光り、 願いを叶えた。

 いつの間にか 飯屋のいかつい夫婦が手を取り合い、 頬を染め、
 狭い路地を 桃色に染め始めていた。
 未成年禁止である。

 港町の裏通り、 ご町内の皆さんは救われた。
 世界を救うには、 道ははるかに遠い。


            第六章は これでおしまい

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