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蜻蛉の願いはキンキラキン 第五章――10



「そ、 それは、 もしや……」
 桜の目が釘付けになる。

 八尺の両手でつかまれて、 つややかに緑色の光沢を放つ丸い玉。
「いいでしょう。 隠居に頼んで 取り寄せてもらいました」
 西瓜の名産地 尾鼻山の名人が 温室で丹精込めた一品、
『翡翠(ひすい)珠』と銘打たれた一級品だ。

 その名の通り 黒い縞は無く、 美しい緑一色のそれは、
 高価な値段にもかかわらず人気があり、 手に入りにくいことでも有名だ。
 育成が難しく 露地栽培では育たないのだ。
 よほどの金持ちか 伝(つて)のある人間の口にしか入ることはないが、
 味も絶品だと評価が高く、
 西瓜好きはもちろん 食通の間でも憧れの存在だった。

 無論、 片田舎の貧乏まじない師が口にできる物ではない。
 桜の瞳が怪しく輝いた。
「………………する。 ……なんでも……する!!!」
 西瓜しか目に入っていない桜の返事に、 八尺は 会心の笑みを浮かべた。


 裳名里屋本家の倉は、 とても一日で見物できるほど生易しいものではなかった。
 美青年一太郎に優しく案内され、 ご馳走三昧に明け暮れて、
 竜宮城の浦島太郎よろしく、 蜻蛉は 時の経つのをすっかり忘れた。

 本家に来て 何日過ぎたのか定かではなくなったある日、
「祖父から使いが来ました。
 おばあ様がお待ちになっていらっしゃるとのこと、 隠居所までお送りしましょう。
 これをどうぞ。 お土産です」
 箱を渡された。
 黒い立派な箱に 赤い紐がかかっている。
 絵本で見た玉手箱にそっくりだ。

「う、 うん。 そういえば 桜さんを放ったらかしにしてしまった。
 怒ってるかなあ」
 夢から覚めたような気持ちになって、 戻ることにした。

 戻った蜻蛉が、言い訳も思いつかないまま、
 隠居所の中を、 桜を探してうろうろすると、
 使用人たちが 興奮したように浮き足立っている。
 蜻蛉がいない間に 何かあったに違いない。
 恐る恐る桜を探す。

 やっと見つけた桜は 妙にご機嫌だった。 すこぶる怪しい。
「桜さん、 ご機嫌いかが」
「まあまあだな。 蜻蛉ちゃんは?」
 ちゃんを付けて呼ぶところが、 さらに怪しい。
 しかし、 蜻蛉も 本家でたらふくご馳走を食べてきた弱みがある。
 鋭い追求が出来ない。

「おかげさまで。 何かいいことでもあったのか」
「蜻蛉こそ、 たいそうな箱を持っているようだが」
 言われて、 手に持っていたお土産を思い出した。
 そうだ、 桜なら たとえ煙が出てきても これ以上婆さんになることはない、
 と思ってしまった。

「本家からお土産だ」
 桜は鷹揚に受け取った。



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