RSS

蜻蛉の願いはキンキラキン 第五章――6



「だから、 誘拐じゃない。 いとしの桜さんに頼まれたのだ」
 しつこく繰り返される尋問に うんざりしながらも、
 八尺は諦めることなく弁明を試みた。

「ほほう、 怪しい魔法使いばあさんの愛人か」
 真面目な警邏官は、 そんなたわごとに惑わされない。
 何しろ現行犯だ。

 桜も一緒に捕まっていた。
「蜻蛉は孫だ。 当人に聞いてみろ。
 それにこいつは愛人などではない。 勝手にくっついてきただけだ」
 『怪しい魔法使い』を否定し忘れている。
「もちろんだ。 今別室で介抱している。
 落ち着いたら 被害者にも事情聴取する」


 蜻蛉は ご機嫌斜めだった。
 事態がよく把握できていない。
「腹が減った。 死にそうだ。 もう、 死ぬ」
「かわいそうに、 食事も与えられなかったのか。
 すぐにカツ丼を取ってやるから 安心しなさい」
 善意の警邏官の 大いなる誤解は続く。


「被害者に食事もさせていなかったらしいじゃないか。 非道な奴らだ。
 誘拐は重罪だ。 観念するんだな」
 別室では、 カツ丼をいたく気に入った蜻蛉が、 お代わりをねだってるとも知らず、
 そうとは知らない桜が、 見当違いの取調べにうんざりして、 こちらも腹を空かせ、
 とっくに限界を超えていた。
「あのバカ蜻蛉、 何を考えてる。
 大事なおばあちゃんを 無実の罪に落すつもりか!」

 八尺は、 桜の苛立ちを 正確に把握していた。
(そろそろ餌、 違った、 食事をさせなくては、 哀れな警邏官が呪われるかも)
 堪らず 奥の手を出すことにした。
「裳名里(もなり)屋のご隠居さんを 呼んで欲しい」

「えっ、 あの由緒ある大財閥の 裳名里屋さんか」
「うん、 あの爺さんなら、 俺が誘拐するような男じゃないことを分かってくれているはずだ。
 聞いてくれ」
 警邏詰め所は、 三つ葉葵の印籠を出したような騒ぎになった。
 お茶が出た。 茶菓子も付いた。

 蜻蛉が 五杯目のカツ丼に喰らいついていた頃、
 裳名里屋の隠居、 麦平(むぎへい)本人がやってきた。
 小柄な老人だが、 穏やかな見た目にもかかわらず 目には力があり、
 うっかり逆らったりしたら怖そうだ。

「この御仁は、 わたしの大事な客人でしてな。
 けして かどわかしを働くような方ではない。 保障する。
 引き取らせてもらってもいいだろうか。 わたしが責任を持ちます」
「ははーっ、 よおーっく事情は分かりました。
 本官の早とちりでした。 どうぞお引取りくださってけっこうです」

 そんなこんなで、 桜と蜻蛉も 裳名里屋の屋敷に ついていくことになった。
 警邏隊詰め所を出ると、 外は 長かった日が暮れようとしていた。



戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
1362: by LandM on 2013/06/05 at 18:34:00

意外に。こういうのは指示した人というのは証拠がないから面倒ですよね。
複数の証言があればいいですけどね、それでも明確な証拠にはならないんですよね。物的証拠が残らないものは証拠でないのが現代の法律ですからね。それは正しいのですけどね。

1363:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2013/06/05 at 19:06:12 (コメント編集)

真面目に考察して頂きましたが、
これは冤罪です。
そこんとこ、宜しくお願いします。
証拠が出てきたりしたら、そっちの方が困っちゃいます。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア