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蜻蛉の願いはキンキラキン 第五章――2



 蜻蛉は 仕方なく、桜の元に戻る。
「代官屋敷で飯を食ってから、
 まだそんなに時間が経ってないんだけど、 もう 腹が空いたのか」
「うむ、 全て 馬車の中で 気化してしまった気がする」
「言われてみれば そんな気もする」
 二人は 迷わず入店した。

 食事時間から外れた食堂は、 がらがらに空いていた。
 八尺は 桜の正面に座を占めると、 ニコニコしながら付き合った。

「蜻蛉、 ここらでぶらぶらするのか?」
 人心地がついた桜が 問いかける。
「いんや、 出発するぞ。 あっちだ!」
 蜻蛉は 飯をかきこみながらも ビシッと指を指した。

「ふ~む、 あっちって何処だろ」
 思わず呟いた桜の言葉に反応して、八尺が動いた。
 店の親父に声をかける。
「すまんが 地図があったら貸してくれないか。
 方位磁石があれば それも頼む」
 店主は 怪しげな風体の客に逆らう勇気もなく、
 おとなしく 奥から地図と磁石を出してきた。
 受け取って、 八尺は卓の上に地図を広げる。
 磁石にあわせて地図の向きを調整し、
 さあどうぞというように、 蜻蛉にうなずいた。

「あっちだ!」
 迷いもなく指した方向をたどっていく。
「……井氷鹿(いひか)湖、 ……果樹園、 虚空の都もこの方角だな」
「そこだ!  都に行こう!」

「ふううん、 蜻蛉、 おまえ 面白い体質をしているなあ。
 福さんにも負けないぞ」
 八尺が感心しているが、
 宝珠に願って手に入れた能力は、 ズルをしているようで面映い。
「福さんと勝負するつもりは無い。 負けでいい」

 そんな様子を眺めて、 八尺は やっと少しだけ蜻蛉に興味を抱いた。
 どうやらこの子は、 何かしら はっきりとした目的があるらしいと。
 しかし、 さすがに世界征服を目指しているとは 思いつきもしなかった。


 今那司には 一日しか滞在しなかった。
 翌朝は、 早速都行きの馬車に乗り込む。
 大型の特急便だった。
 馬力があり、 かなりの速さで進む。
 しかし、 蜻蛉の期待は裏切られ、
 乗客たちは ほとんど仕事で飛び回っている人間ばかりだ。
 面白いこともさして無く、 異質な三人が ただ毛嫌いされるばかりだった。

 小太りの若い男は まだ旅の経験が浅いらしく、
 桜が隣に乗り込むと、 手荷物をしっかと胸元に抱きかかえて 怯えた。
 よほど大事なものを持っているのが 丸分かりだ。

(うっかり近づくと 吠えられそうだな)
 蜻蛉が、 そう思いながら続いて乗ると、
「キャン!」
 本当に吠えた。

 桜とは小太りをはさんで 長身の男が座っている。
 落ち着いた物腰の、 いかにもやり手の商売人に見えるその男が 苦笑いしながら、
「本当に危険な人間は、 こんなに怪しい姿はしていないものですよ。
 ごく普通の恰好をしているものです」
 と、 ちっとも助けにならない忠告をしたが、
 小太り男は、 ついに 最後まで手荷物を抱え込んだまま 手放さなかった。
 三人のうちの誰かが近づくたびに、 キャンキャンと吠えて怯えた。

 三日後、 都に着いた時には、 蜻蛉は 馬車の旅に執着を無くしていた。



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