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蜻蛉の願いはキンキラキン 第四章――12



 にわかに始まった演奏会は 大絶賛を浴びた。

 皆、次々と福に握手を求め、
 ついさっきまで 冷たい目で睨み、 罵っていた代官にも 熱い謝辞を述べる。

「あの難曲が、 なんと楽しく 涼やかな調べに聞こえたことか! 
 いや、 素晴らしい。 代官のおかげで貴重な体験が出来た」
 八尺が 珍しくまともな感想を述べた。

 他の一同にも異論はない。
 手放しで褒めちぎる。

 その様子に 福がはらはらと涙を流した。
「ありがとうございます。 こんなに喜んでいただけるなんて……」
「何を言っておる。 感謝するのはこっちだ。
 さっきまで具合が悪かったのが 嘘のようだ」
「こんなステキな演奏は 初めて聴きました。
 感動です。ねえ、好さん」
「本当に最高です。子どもたちにも聴かせてあげたいわ。
 ねえ、 真手さん」
「素晴らしい!  見事な尻を持っているだけのことはある。 しかも美人だ」

 なおも絶賛する聴衆に 深々と頭を下げた福は、 決然として言った。
「引退は取り消します。 皆さんのおかげで 続ける気になりました。
 今後も 演奏家として活躍する決心が出来ました。
 恥ずかしがらないで、 おなら演奏の星を目指します」

『何を言ってるんですか。
 もう すでに福さんは 立派な綺羅星ですよ。 ねえ皆さん。
 私の収集の中でも 最高の自慢になります」
 貧相な収集狂代官の、 幸せそうな声が響いた。



 翌日、 あっという間に 道は開いた。
 出発間際に、 八尺は 豆と芋の絵を 酒代だと代官に渡した。
 見事な出来だった。


 町まで残りわずかの行程で、
 豆と芋ばかりの食事の意味を、 誰もが いやというほど思い知らされた。
 我慢できなくなっていたのだ。
 全員同じなのだから 無礼講でいこう ということになり、
 調子ハズレの怪音が 乱れた不協和音となって 馬車から鳴り響いた。
 えらく臭かった。

 鼻を摘みながら 蜻蛉は考える。
(もしかして、 これも茶色宝珠のせいなのだろうか)と……。
 そして、 他には聞こえないように、 こっそりと耳打ちした。

「なあ、 桜さん。 福さんが いきなり元気になったなあ。
 もしかして、 四弦琴で伴奏しながら まじないとかした?」
「ふっ、 分かったか。 溜まっていた負の濁りを 抜き放ってやっただけだ。
 どうだ、 わたしのまじないも まんざらじゃないだろう」

 残りわずかの距離を、 軽やかに馬車は進む。


                        第五章につづく



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コメント
902: by キョウ頭 on 2012/12/05 at 22:11:58

いやぁ、まさかの「おなら」でした。
確かに、乙女なら引退を考える芸ですよw

それでも、続ける道を選ぶとは、福さん大したモンだ!

903:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2012/12/05 at 23:05:45 (コメント編集)

福さん、芸ばかりではなく大物です。
きっと大スターになるでしょう。

ちょっと臭いのきつい第四章でした。宝珠の呪い(?)
次章は、爽やかにいきたいものです。

1029: by レバニラ on 2013/01/13 at 11:28:50 (コメント編集)

第四章、拝読させて頂きました。

凄いです、読みながら一頻り悶絶しました、
まさか肥溜めに始まってオナラで締めるとは・・・
中程にデュシャンの「泉」が登場するのも代官の妙な芸術観を示すファクターなのかと思ったら、
徹頭徹尾そっち方面のネタでこの章を構成する為とは、お見事と賞賛すべきか、力の入れどころを間違っていると苦言すべきか迷います。

次の章も楽しみに読ませて頂きます。

1031:Re: レバニラ様 by しのぶもじずり on 2013/01/13 at 18:46:13 (コメント編集)

いらっしゃいませ。コメントをありがとうございます。

恐れ入ります。ご指摘の通り、力の入れどころに問題があるかもしれません。
糞尿譚とか好きなのです。
「茶色」から、それしか思い浮かびませんでした (^^ゞ
もしかしたら、私はフランス人の哲学者なのかもしれません。なんちって。
いや、食事しながら糞尿譚を語るあの人たちには、私なんか、まだまだです。
精進します。

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