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蜻蛉の願いはキンキラキン 第四章――11



 その日、 崖崩れの修復は進まぬままに 日が暮れた。

 桜と蜻蛉は、 日がな一日 代官屋敷の談話室で 四弦琴をかき鳴らしては ごろごろ過ごし、
 八尺は 台所から酒をくすねては 飲み続けた。

 夕食の時刻になり、 皆が食堂に集まってきたが、 そこに代官の姿は見えなかった。
 給仕が さっさと料理を出していく。
 相変わらずの豆と芋だ。
 八尺は いい調子で飲み続けた。
 蜻蛉も食べている間は おとなしい。
 夕食の席は 沈黙と重い空気が支配していた。

「うぃ~、 俺は酒さえあれば文句無いが、
 代官は本気で腰をすえるつもりのようだ。 ひっく」
 酔っぱらい八尺が言ったとき、
「こう見えても 我輩だって忙しい身なのだ。
 聞いてやったらどうだ、 減るもんじゃ無し」
 ついに、 博士が小さな声で こっそりと呟いた。

 元将軍の顔に 一瞬怒りが走るが、 あえて異論を唱えようとはしない。
 食事を終えて 大きなため息をつき、 立ち上がろうとして ふらりとよろめいた。
 隣に座っていた八尺が 素早く支える。

「爺さん、 大丈夫か」
「……いや、 面目ない。 …… 薬が…… 懐に……」
「わかった。 談話室の長椅子に寝かせよう。 手伝ってくれ」
 八尺に応えて 助手の小男が支え、
 博士が扉を開け、
 好が白湯を貰いに行った。

 それまでおとなしくしていた福が 突然のように立ち上がり、
 唇をかみ締めて出て行く。
 誰も あえて彼女に目を向けようとはしなかった。


 やがて 元将軍も落ち着いたが、
 皆、 立ち去る機会を失って 静かにたたずんでいた。
 いつまでこうしているのだろうか という不安が垣間見える。
 そのとき、 思いっきり場違いな 喜色満面の代官が、
 ジャジャーンとばかりに登場した。

「おお、 ちょうど良い、 ちょうど良い。 皆さんも是非ご一緒に。
 福さんが ついに承諾してくれました」
 蜻蛉以外の全員が 固まった。
「ご一緒にって!」
「何をご一緒するのだ?  ああ、 福さんの下半身だったな」
 一人とぼけた発言は、 もちろん蜻蛉だ。
 全員が さらに固まる。

 上機嫌の代官に促されて 福が前に進み出た。
 諦めきったのか、 静かな面持ちだ。
「……では、 藩雅忍忍(ばんがにんにん)の協奏曲二番、 第三楽章 通称『鐘』を」
 言うと、 おもむろに後ろ向きになり、 尻を突き出した。


 プ――ピッピピ  ピーピッピ  プーピッピ  プープッププププ  プププ  ププププー
 プ――ピッピピ  プーピッピ  プーピッピ  ピーヒョロロ  ピーヒョロロ プ――


 福のお尻から やわらかく暖かく、 弾むように音が流れる。
 客たちも はじめは驚いたものの、 すぐに調べに聞き入った。
 談話室に置いてあった四弦琴を引き寄せ、 桜が 控えめに伴奏を付ける。
 見事な おならの演奏だった。

 元将軍が 気持ちよさそうに 目を閉じて聞き入る。
 さっきまで蒼白だった顔色が 和らいでいく。
 真手は目を見開き、 好は楽しそうに身体を揺らし始めた。

 協奏曲の演奏が終わると、
 博士は盛大な拍手で 躍り上がらんばかりに
「お見事、 お見事」
 と はしゃいだ。



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898:管理人のみ閲覧できます by on 2012/12/04 at 16:04:33

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