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蜻蛉の願いはキンキラキン 第四章――10



 翌朝、 豆料理と芋料理の並ぶ食卓に、 客たちが ぞろぞろと集まってきた時、
 遅れて入ってきた八尺が、 顎に手を当てて しかめっ面をした。

「よう、 代官さん。 道の復旧が いっこうにはかどってないようだが、 何故だ」
 それを聞いた他の客たちが、 いっせいに代官を見るが、
 代官は へらへらと楽しそうな顔を崩さず、 そらっとぼけた。

「おや、 そうですか。 それは それは 困りましたね。
 でもご心配なく、 通れるまで滞在してもらっても かまいません。
 そのうちに 福さんの気が変わるかもしれないし」
「なんだよそれ。 あっ!  わざとだ。 こいつ わざと意地悪してるな。
 代官がそんなことしたら駄目だろう。 そういうの、 職権乱用って言うんだぞ」
 蜻蛉が大声で喚く。

「福さん、 こんな男の言いなりになることはありませんぞ」
 と 睨むのは元将軍。
「然り、 こんな奴より 我輩のほうが良い」
 と、 ドサクサ紛れにつぶやくのは 博士だ。
「公職にあるまじき振る舞いですね」
 真手も睨んでいる。
「遠回りでも 温泉町に戻りましょう」

 好が決然と言ったところに 御者が駆け込んできた。
「お代官様、 馬が見当たらないのですが ご存知ないですか」
「おお、 蹄(ひづめ)が痛んでいるようだったので、
 蹄鉄(ていてつ)を打ち直してやる と連れて行った者がいるようです。
 気が利く人が居て よかった よかった。
 でも、 上りはきついし 遠いですなあ、 歩いていくのは大変だ」

 客たちは、 思わず顔を見合わせる。
 二人の女と博士は 脚に自信がないようだった。
 一見頑丈そうに見える元将軍も、 湯治に来るくらいだから どこか身体を壊しているのだろう。
 歩いてでも戻ると言い出す者は いなかった。
 蜻蛉たちも、 そこまで面倒なことはしたくない。

 しーんと静まった中、 青くなって黙り込んでいた福が、
 か細い声で口を開いた。
「お願いです。 引退して故郷に帰ります。
 どうせわたしなど すぐに忘れ去られてしまいます。
 どうか見逃してください。 あきらめてください」

「最後なら ますます良い記念になる。
 私の辞書に『諦める』という言葉はありません」
「あんたの辞書は バッタモンだろう。 あたしの辞書には載ってるぞ」
 ベタなツッコミをする蜻蛉を 歯牙にもかけず、 代官は続けた。

「本当に 故郷に帰りますか。 嘘でしょう。
 知らない土地で ひっそりと暮らすつもりなら、 少しでも蓄えが多いほうが良い。
 料金は弾みますよ」
「…………」

 楽しそうに食堂を出て行く代官を見送って、 客たちも無言で散っていった。

 福の横を通りすがりに 聞こえるように真手が言う。
「困りましたね。 待っている子どもたちがいるというのに」



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コメント
893: by lime on 2012/12/03 at 18:37:15 (コメント編集)

美人の福さんの職業が気になりますねえ。
引退して引っ込むんですか。
なにがあったんでしょ。

代官のコレクションみたいな、骨董屋が、大阪にはあります。
(探偵ナイトスクープでやってたw)
秀吉のおまるだとか、信長の股引だとか・・・。
あのおじさん、まだやってるのかなあ・・・。

894:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/12/03 at 19:01:14 (コメント編集)

> (探偵ナイトスクープでやってたw)
何回か見たことがあります。田舎のあやしい博物館みたいなのとか。
最近番組を見た覚えがないのですが、まだやってるのでしょうか。

なるほど、言われてみれば、そういうノリに近いかもしれません。

福さんの正体は、間もなく明かされます。

1343: by LandM on 2013/05/25 at 07:30:55

当人の辞書と他人の辞書を比べても仕方ないと思いますが、ペラペラな辞書の感が・・・・。と言ってはいけないことですね。

1344:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2013/05/25 at 10:42:43 (コメント編集)

はい、おっしゃる通り、ペラッペラです。
あるいは、都合の悪いページを破り捨てたのかもしれません。
こっちの方がありそうかな。

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