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蜻蛉の願いはキンキラキン 第四章――4



 しかし、 男の拳が蜻蛉に届くことはなかった。

 寸前で 伸びてきた腕が つかんで捻りあげる。
 ぼさぼさの髪に無精髭(ぶしょうひげ)、
 いつ着替えたのだろうというほどよれよれの恰好をした むさい男だった。
 が、 強い。

 くっついていた子分たちが 親分を守ろうと いっせいに襲い掛かるのを、
 次々と叩きのめしていく。
「女の子に乱暴な真似は いけないなあ。 ひっく」
 髭男も酔っていた。
 髭のせいで 年齢不詳だが、 三十は超えていそうだ。
 助けてくれたことが無ければ、 この場で一番怪しいのはこいつだ。
 不幸な男と子分たちは、
「お、 覚えてろ!」
 定番の捨て台詞を残して、 大慌てで立ち去った。

「おっとっと、 いけねえ、 飲みすぎたみたいだ」
 髭男は よろめく足取りで近づいた。
「お嬢さん、 お怪我はあり…… いい女だなあ」
 うっとりと見つめたのは、 誰あろう 魔法使い桜だ。
 相当に酔っているとしか思えない。

「わたくし、 八尺(やさか)と申します。 お付き合いしてください」
「せっかくだが、 男は卒業しておる。 他を当たれ」
 マジで答える桜だったが、
 周りの見物人は 唖然とし、 そそくさと立ち去っていった。

 蜻蛉は気にせず 弓矢を構えて 続きに専念しようとしたが、
 八尺が、
「ちょいと貸してごらん、 麗しき貴婦人のお連れさん」
 取り上げて 弓矢をなにやらいじくった末に射た。
 目玉の景品に命中する。
『町一番の宿一泊と 食べ放題飲み放題の夜・招待券 お二人様』

「そんな、 当たるはずが…… あたっ」
 打ちひしがれる矢場の親父をよそに、 蜻蛉は大はしゃぎで自己紹介をした。
「うわあ、 すごい!  重ね重ねありがとう。
 見かけによらず良い人なんだな。
 あたしは蜻蛉って言うんだ。 貴婦人は桜さんだ」
「おお、 桜さん、 桜さん。 あなたはどうして桜さんなのだ。
 美しい、 お名前も美しい」

 すっかり招待券で蜻蛉を手なずけた八尺は、 調子よく 町一番の宿まで案内した。
 その夜は、 自費で参加した八尺とともに、 飲めや歌えのドンチャン騒ぎで更けてゆく。
「やっくん、 飲みっぷりがいいねえ」
「桜さんの食べっぷりは見事です。 ますます惚れました。
 結婚してください。 うぃ~」

 桜と蜻蛉の底なし沼としか思えない胃袋と、
 目の無い笊―― 八尺の飲みっぷりに宿屋は青くなった。
 客寄せの特待割引なのに、 来てもらわないほうが良かった。
 破産しそうだ。
 宿屋の恐怖を追い詰めるかのように、
 一天にわかにかき曇り、 雷鳴が轟く。
 後を追って バケツをひっくり返すような土砂降りの雨が降り注いだ。
 激しい雨音にも負けずに、 三人の快進撃は続く。
 宿は悲鳴を上げ、
 ようやく雨が上がった翌朝は、 二度と来ないで欲しいと送り出された。



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コメント
1324: by LandM on 2013/05/12 at 19:38:07

まあ、酒に関しては原価が低いですからね。
儲けにはなると思いますけどね。
チューハイは店にとってボロ儲けと言いますからね。ちなみに私も酒はよく飲みます。「○○のお酒、店にあるの全部買います。」・・・とよく言います。店員が店内にある酒をかき集めるのをよくみます。私だけじゃなくて、家族全員酒を飲みますからね。。。

1325:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2013/05/13 at 11:24:09 (コメント編集)

LandMさんのところは、ご一家そろって豪快な酒飲みなのですね。
武勇伝とかいっぱいありそう。

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