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蜻蛉の願いはキンキラキン 第三章――6



 三号は ヘロヘロになりながらも、 急いで朝飯を作り始めた。
 また 雑炊だ。

 桜と蜻蛉は、 美味そうな匂いを嗅ぎながら、
 こんなに早く食べることになるとは思わなかった 非常用の干芋を齧って耐えた。

 雑炊が出来上がっても、 また火傷しては叶わないと、
 冷めるまで、 走り回ろうとする赤麿を 押さえ込む騒ぎが続く。
 ようやく 雑炊が食べごろに冷めた頃、
 寝不足と 虫刺されと 心の痛手を負った男たちは、 ぐったりして動かなくなった。
 赤麿が食べ始めて、 やっとひと時の平安が訪れた。
 それまでの騒ぎがうそのように、
 パクパク、 ズルズル と一心に雑炊を食べる音だけが 小屋の中を支配していた。

 はっとしたように 親分が気を取り直して立ち上がった。
「いけねえ。 身代金を取りにいかなきゃなんねえ。
 俺たちも飯を食って出かけるぞ」
 三号が用意しようとして、 固まった。

「どうした」
「空っぽです。 赤麿様が…… 全部…… 食べてしまいました」
「…………」
「…………」
「むむむむ、 あの騒ぎを繰り返している暇はねえ。
 仕方がない、 いくぞ二号」
「……親分まで『二号』ですか」

「三号、 おまえはガキの見張りだ」
「ええっ、 俺一人で?  殺生(せっしょう)な」
「もうちっとの辛抱だ。 勇気を持って ガンバレ!」
 ガシャーン、
「親分、 俺の勇気は粉々だ。
 ……この湯飲み茶碗、 お袋の形見だったのに…………………… おっかさ――ん」

 金槌を握って 満足そうな赤麿がいる。
 砕け散った 魚偏の漢字がぎっしり書き込まれた湯飲みの残骸がある。
 鯵、 鮃、 鰻、 鯖、 鱈、 鱚、 鯛、
 震える手でかけらを追い、 鮪の破片を握り締めて 泣き崩れる三号を残し、
 腹ペコのまま 男二人は出て行く。

「三号のおっかさんて 寿司屋だったのか」
 蜻蛉の無意味な呟きが 連中に届くことはなく、 二人の足音は遠ざかって行った。
「こっちも もう少しの辛抱だな」
 三号の泣き声と、 赤麿が 金槌で次々何かを叩いたり 壊したりしている音にまぎれて、
 小声で言う桜の声が 気づかれることはない。
「身代金が手に入ったら、 ここを引き払って逃げるだろうからな」

 だが、 しばらくじっと待っていた二人に 不安がよぎった。
「なあ、 地主は身代金を出すだろうか」
「五分五分…… いや、 いかん。 もっと確率は低いぞ。 まずい!」
 二人は顔をみあわせる。
 不安が ますます広がった。

「泣いている三号一人なら、 二人で何とか出来るんじゃないだろうか。
 今のうちに逃げたほうが良くないか」
「うん、 それもそうだ」
「赤麿はどうする。 連れて逃げるのか」

「放っとけ、 関わるな」



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コメント
1210: by LandM on 2013/03/23 at 08:00:56

引き際は大切ですけどね。
失敗しそうになったら逃げるのも一手ですね。
何か計算上のミスがあれば、
そこから全てが狂う時が多いので、
誘拐事件でもこちら側から見てなにもないように見えても逃げる人もいますからね。

1211:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2013/03/23 at 11:03:46 (コメント編集)

撤退は進撃よりも難しいらしいですよ。
逃げようとしても逃げられるかどうかは別問題です。
逃げるのも、才能と時の運が必要だったりして。

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