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蜻蛉の願いはキンキラキン 第二章――5



 夜明け前の闇の中に佇む まじない師の家から ガサゴソと音がする。
 やがて、 ほんのりと 何処からか滲むように現れ始めた薄明かりに誘われて、
 戸口から 蜻蛉が辺りを窺いに 顔を覗かせた。

「大丈夫だ、 まだ来てない」
 奥に声をかけ、 扉に貼り紙をとめる。

〈旅に出ます。 探さないでください〉
 ほとんど、 家出の書置きだ。

 蜻蛉は、 二人の着替えを入れた背嚢(はいのう)を背負い、
 桜は いつものように黒ずくめの服に、
 さらに 黒い頭巾のついた袖なし外套(がいとう)を着ていた。
 大事な日除け頭巾を ゴミにされてしまった為、
 笥(たんす)の奥から引っ張り出してきたしろものだ。
 黒ずくめの頭巾と外套に すっぽりと覆われた姿は、
 異国の 御伽噺(おとぎばなし)に出てくる 魔法使いのおばあさんを彷彿(ほうふつ)とさせる。
 似合っているのが 怖い。
 二人は裏道伝いに、 町の公民館を目指した。


 管理人宿舎の扉をがんがん叩いて たたき起こし、
 寝ぼけ眼の管理人に宣告する。
「我らは、 記念行事の手伝いに来た。
 泊り込みで 準備を請け負うぞ。 参ったか」
「あ、 ありがとうございます。
 でも、 泊まり込みで手伝って頂くほどの事ではありません」
 管理人は、 驚いているのか 癖なのか、 目をぱちぱちさせて答えた。

「いや、 遠慮するには及ばんぞ」
「そうそう、 遠慮しなくていいからね」
 出来れば遠慮したい と思う管理人だったが、
 町の行事に参加したい という住人を 勝手に断るわけにもいかない。

 まじないを頼んだこともあるから、 顔は知っている。
 二人は 端っこで細々と暮らしているとはいえ、 地域住人であることには変わりない。
「もう少ししたら 世話役の実行委員が来ますから、 待っていてください」
 仕方なく鍵を開けて、 二人を公民館に入れた。

 まもなくやって来た 中年太りの世話役に引き合わされた桜が 言う。
「善意の行いというものは 大々的に喧伝(けんでん)するものではないからな、
 我らが手伝っていることは 内密にしたい」
 しかし、 魔法使いのおばあさんみたいな格好で 勝手に目立っているのは本人である。
 しかも、 めったにやらないことをしていれば 噂になるに決まっている。
 面倒だから断ろうとしたが、 女二人の 鋭い視線に負けてしまう男たちだった。
「あははは、 じゃあ、 小部屋の中で くす玉の準備でもして頂きましょうか」
 乾いた笑いで 応じるしかなかった。

「いいか、 手伝うのは 世を忍ぶ仮の姿だからな。 くれぐれも内緒だぞ。
 名を言う必要が生じた時は、 この子はヤゴと呼んでくれ」
「ヤゴ…… ですか」
「うむ、 まだ羽を広げて飛んでおらんから ちょうど良い。
 わたしのことは、 薔薇とでも 牡丹とでも……」

「梅干婆がいいんじゃないか」
 そういう乱暴な提案ができるのは、 その場に一人しかいない。



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コメント
796: by lime on 2012/11/07 at 20:34:32 (コメント編集)

あの美男二人のおかげで、ややこしいことになってきましたね。いったい何者?
しかしこの二人、動くごとに、世間に何やら(少し)迷惑をかけているような・・・。
公民館でボランティア。それ自体は、とてもいいことです。
しかし・・・冒険は??w

797:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/11/07 at 22:01:44 (コメント編集)

> しかし・・・冒険は??w
本当に、いつ始まるんでしょうね。すいません。作者です。
さすがに、もう少ししたら、出かけると思います。
出不精の冒険者とか、あり得ないですから(^^ゞ

1076: by LandM on 2013/01/27 at 07:01:28

旅に出ます。探さないでください。
・・・と書かれると余計に探したくなるような気はしますけどね。
実際にそんな置手紙を残して、旅に出た人はいるのだろうか。。。

1078:Re: LandM様 by しのぶもじずり on 2013/01/27 at 18:38:25 (コメント編集)

いらっしゃいませ。

自殺行に出かける人の、書き置きの定番だと思ったのですが、
伝わり難いギャグでしたか。
すいません。

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