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蜻蛉の願いはキンキラキン 第一章―6



 桜は、 いかにも興味がなさそうに、
 しかしながら、 しっかり 一つ一つ店内の品物に手を当ててゆく。
 ひとしきり店内を回ると、 店主と思われる親父が 声をかけてきた。
「お安くしときますよ」

「店を閉めるのか」
「爺さんが 暇つぶしみたいにやっていたんですが、
 先日 くたばってしまいまして、 処分したいんです」
 古道具屋の親父は 正直者だった。

 桜は、 店内の一番目立つところに飾ってある 四弦琴(よんげんきん)を手に取り、
 弦巻きを軽く絞めて、 弦を弾いた。
 なかなかの音色である。

 四弦琴は 琵琶(びわ)とは違い、
 響胴が小太鼓のような短い筒状になっていて、 まっすぐな棹がついている。
 撥(ばち)で弾(ひ)くこともあるが、 普通は 指先で爪弾(つまび)くことが多い。
 値段を聞くと、 やはりけっこうな額だ。

「もってけ泥棒 と書いてある割には、 ちゃんとした値段を言うじゃないか」
「売れそうなのは、 それくらいしかありませんから」
「もっと安くしろ」
 桜が口にしたのは、 十分の一以下の値段だった。

「ご冗談でしょう。 あっちの四弦琴なら、 その半分でけっこうですよ。
 先日、 ふらりとやって来た流れ者が 金に困って売っていった物ですから。
 何と言いましょうか、 ……全ての希望を諦めたような男でしたかね。
 縁起が悪そうなので、 お安くします」
 親父は言って、 壁にかかっていた もう一つを指差した。

 奇妙な形をしている。
 本来弦巻きになっている部分から まっすぐに棒のようなものが突き出し、
 弦巻きは 横に張り出して、
 弦は一度、 棹首の釘のような出っ張りを通して張ってある。
 どういうつもりなのか、 邪魔くさい形だ。
 桜は なおも強引な値引き交渉をしたが、 親父も意地になって譲らない。

 ふと気がつけば、 蜻蛉が 目を爛々と光らせて、 四弦琴を見つめ、
 全身で『欲しい!』 と叫んでいた。
 誰が見ても、
 何処から見ても、
 どう見ても、 一心に 欲しがっているようにしか見えない。

 蜻蛉は 四弦琴が得意だった。
 何も無いド田舎で、 遊ぶものとてなく、
 家に転がっていた 桜の四弦琴を玩具にするしかなかったのだ。
 唯一の趣味といって良い。
 だが、 先日、 家の中に入り込んだニワトリが突きまわし、
 響胴の塗りが剥げ、 悲しい姿になっていた。
 どうせ安物だろうから、 少し良いものが欲しい と思っていたのだ。
 店頭の四弦琴は、 音色の良さを考えれば
 決して高くないばかりか 安いとさえ思われた。

 桜は 大きく舌打ちをし、 店主は にやりと笑った。

 桜は ため息をつき、
 さらに値引き交渉をしたが、 敗色はぬぐえなかった。
 店主は 勝ったと思ったのか、 うれしそうに言い放つ。
「壁にかかってる方なら、 銭一文でも良いですが、
 こっちは、 これ以上まけられません」

「そうか。 では、 あっちのをもらおう」
 桜は、 あっさり、 変な形の 縁起の悪い四弦琴を買った。
 気前よく、 ぽいと銭を渡す。

「ふん、 買うつもりもなく入ったのに、 親父、 意外に商売上手だな。
 おい 荷物持ち、 おまえだ蜻蛉、 持て」

 文句を言い出しそうな蜻蛉を、 一睨みして黙らせ、 店を出る。



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