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マル子とペケ子のおとぎ話問答 浦島太郎編

 ペケ子のボロアパートの ごみ溜めの如き部屋に、 ある日 マル子がやって来た。
 近所の飲み屋で、 酔っぱらい同士として 偶然知り合った二人は、
 飲み屋から遠ざかってからも、 たまに行き来をする付き合いが ズルズルと続いている。
 友人なのかというと、 互いに微妙である。
 知り合いに毛が生えた程度というところか。

 マル子は 幼稚園の先生をしている。 ペケ子は 正体不明である。

 マル子が言った。
「子どもたちに、 日本の昔話を聞かせようかと思うんですよ。
 で、 『浦島太郎』が良いんじゃないかと思って 絵本を用意したんです。
 練習したいので、 聞いてもらえませんか。
 おかしな所があったら ダメダシしてください。
 いきます。 昔々、 浦島太郎という漁師がおりました。
 母親を大事にする親孝行でしたが、 とても貧乏でした。
 ある日の事、 海辺を歩いていると、 子どもたちが亀を苛めて騒いでいました。
 かわいそうに思った浦島太郎は、
 子どもたちに小遣いを与え、 亀を助けて、 海に放してやりました」

「ちょっと待った」
 ペケ子が、 とうとつに ストップをかける。

「どこか変でしたか。 私、 なまってますかねえ」
「いや、 そうじゃなくて、 浦島太郎が貧乏って、 おかしくない?」
「でも この本には そう書いてありますけど」
「だから その本、 間違ってない?  おかしいでしょ。
 たまたま見かけただけの亀を助けるのに、 子どもたちに 小遣いをやったりする酔狂が出来るなら、
 貧乏ってことはないでしょ」

「えっ?  貧乏なのに 亀を助けるから 偉いんじゃないですか」
 マル子は、 感動するのが好きだ。
 主人公は かわいそうに限る。
 幸せいっぱいだと、 それで話は終わってしまう。
 始まった途端に、 めでたしめでたし になってしまうではないか。

「あなたは 貧乏を知らないね。
 腹を空かせて 死にそうになった事なんか無いでしょ。 昔々の貧乏は半端ないよ。
 浦島太郎は 親孝行なんでしょ。
 貧乏なら、 亀を助ける前に、 お母さんにご飯を上げなくちゃ。 でしょ? 
 子どもたち ってことは 複数居たわけだ。
 最低限、 そこそこの金は持ってたって事でしょうが。
 貧乏なわけあるかい」

 それなら、 ペケ子は 昔々の半端ない貧乏を知っているのか。
 ちらりとマル子は思うが、 ペケ子は年齢不詳である。
 もしかしたら、 三百年くらい生きているのかもしれない。
 幕末を 「つい最近」と表現した事がある。
 怖いので、 ちゃんと聞いた事は無い。

「なるほど、 ちょっと変かも。 でも、 ほら、 昔話ですから」
「こらこら、 子どもたちに聞かせるのに、 いい加減な話をしたらまずいわ。
 つじつまを合わせなくちゃ。
 だから、 貧乏はカットしなさいよ」

「貧乏な方が 感動的な気がしますけど」
 繰り返すが、 マル子は感動するのが好きだ。
 つじつまよりも 感動を優先したい。

「そういう安易な考え方でまとめちゃだめでしょ。
 親亀にお礼がしたいと言われて、 のこのこと海の底まで行っちゃうような 大胆不敵な奴なんだよ。
 余裕のある人生を送っているよね。
 鯛や平目の舞い踊りで 乙姫様に接待されて、 のんきに喜んで 竜宮城に長逗留を決め込んでるし、
 貧乏人のせっぱつまった感じが全然しない」

「あら、 本当だ 。親孝行というのも怪しいですね。
 お母さんを ほっぽりっぱなしだわ」

「だよね。 そもそも、 浦島太郎ってフルネームっぽくなあい? 
 浦島が名字で、 太郎が名前」
「そんな感じがします。 てか、 そうなんじゃないですか。
 佐藤浦島太郎とか、 鈴木浦島太郎とか ありえないでしょう」
「うん、 昔話の主人公って ほとんど名字が無いよね。
 桃から生まれた桃太郎とか、 ふくべえ爺さんとむくどり爺さんとか」

「爺さん二人は 何者ですか」
「おや、 知らない?  面白い昔話だよ。 私のお気に入りさ」
「どんな話か 気になるなあ」
「いずれそのうち話してあげよう。
 それより、 昔話の主人公には ほとんど名字が無いという事だ」

「金太郎も ファーストネームだけですしね」
「金太郎の名字は 坂田だから」
「えっ?  そうなんですか。
 そういえば 金太郎の話も、 熊と相撲を取ったくらいしか知らないなあ。
 どういう話でしたっけ」
「熊と相撲を取った話だよ。 メインイベントはそれだけだ。
 力持ちを認められて、 武士に取り立てられました。 おわり。
 浦島太郎に話を戻そう。
 おそらく、 浦島は地名だ。
 浦島村の太郎君 という事じゃないかと思う。
 太郎というくらいだから、 村を代表する名士なんだろう。
 漁師だというなら、 網元かもしれない。
 ほら、 貧乏のはずが無い。 もしかしたら、 けっこうなお金持ちだ。
 それなら、 ちょっとした出来心で亀を助けても、 なんら不思議は無い。
 お母さんは心配しただろうが、 息子が居なくなっても、 無事に余生を送ったに違いない。
 めでたしめでたし」

「なんか、 イメージが変わっちゃいました」
「船は昔から高価なものだ。 網にしろ、 竿にしろ、 安くは無い。
 漁師をするには、 それらを手に入れる資本が必要だし、 体力と気力を使うハードな仕事だから、
 その挿絵みたいに 金も力も無さそうな優男(やさおとこ) ってことは無いと思うぞ。
 筋肉マン系で、 ガテン系だろう」

「うわああ、 金持ちの筋肉男ですか。 とことんイメージが違うわ。 浦島太郎」

 ペケ子は おごそかに頷いた。
「そう、 人間て、 よく勝手な思い込みに走るよね」



☆☆一寸法師へ

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コメント
726: by lime on 2012/10/23 at 18:36:51 (コメント編集)

浦島太郎で、こんなに斜めな見解を述べるぺけ子って、ただものではない。

各国の昔話、童話って、よくわからないものがおおいですもんね。
浦島太郎は、本当に哀れな男でした。
優しいのに、あんな末路・・・。

727: by 十二月一日 晩冬 on 2012/10/23 at 19:00:09

けっこうツボです、この話ww
>「貧乏な方が 感動的な気がしますけど」

痛快ですよ、このセリフ。確かに貧乏からの這い上がりって王道ですもんね。移入できるかどうかはさておき、ですがねww

728:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/10/23 at 19:23:14 (コメント編集)

昔話って、けっこう残酷じゃないですか。
そのせいか、近頃はソフトバージョンに変えられた絵本とかが目についちゃったわけです。
ずいぶん勝手に再編されたものある。
それで、気になったわけです。
カチカチ山でおばあさんがタヌキに殺されなかったりしてます。
そうするとタヌキが一方的に可哀相。

こうやって、時代と共に昔話は変わっていくのでしょうね。
ペケ子が勝手に推理して、さらにめちゃくちゃにしていく余地があるわけです。
でも、ペケ子は勝手な推理をしますが、元の話は変えていません。
という事で、推理物になりませんかねえ。

729:Re: 十二月一日様 by しのぶもじずり on 2012/10/23 at 19:50:14 (コメント編集)

浦島太郎は貧乏だ。と言うけれど、貧乏だという物的証拠がないのです。
母子家庭だから即貧乏なのか。そういうケースは多いけど、そうじゃないケースも昔からあります。
亀を助けることに使う金がある。本当に貧乏なのか。
ペケ子は推理します。
ミステリーにはなりませんかねえ。

731: by ポール・ブリッツ on 2012/10/24 at 19:11:51 (コメント編集)

たしかにいわれてみれば、浦島太郎は貧乏だったとはどこにも書かれておりませんね。

しかし彼に貧乏のイメージがつきまとうのは、

「竜宮城から帰ってきたら家も畑も船もなにもなく、しかも白髪のおじいさん」

になっていたところからの類推ではないでしょうか。

ということは、浦島太郎の意味というのは、

「まじめに働いていればいいものを遊興なんかにうつつを抜かすと、財産はなくすわ老人になってしまうわ、ろくなことはないぞ」

という戒めの寓話なのかもしれません。

それか、世の無常か。

おおっ、奥が深いぞ浦島太郎。太宰の「御伽草子」の浦島太郎より奥が深いぞ(そうか?)

ところで、浦島太郎、親孝行なんかしてましたっけ? そんなことは、絵本のどこにも書いていなかったような……。

732:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/10/24 at 19:32:27 (コメント編集)

昔話の絵本は色々なバージョンがありますから、そういうのもあるかもしれません。

母子家庭で貧乏というのは、けっこう定番のほうだと思います。

浦島太郎というフルネームに引っかかったのが、きっかけです。
フルネームを持った昔話の主人公って、ほとんどいませんから。
そこから下手な推理癖があーっ!
どんどん妄想してしまいましたとさ。

927: by 冬待 犬都 on 2012/12/11 at 01:16:47

 昔話っていろいろ諸説ありますよねえ。
ネットで調べてみたりすると、いろんな話が飛び出してきたりして、昔聞いたのとまた違うな、なんてこともよくあって面白いです。
割とホントは子供に聞かせたくないようなドロドロした話みたいだった、なんてのもありますよね。
ところどころで話に改変が起こるのは、その時代の子供に合わせて内容を再構築したせいではないかと、僕は推測します。
昔は割とハードな話でも子供に聞かせられたんじゃないかな、とかそんな気もします。

 そんな疑問を切り開いていく切り口、結構良いと思いますよ。
結構好きです。

933:Re: 冬待 犬都様 by しのぶもじずり on 2012/12/11 at 22:07:18 (コメント編集)

いらっしゃいませ
返事が遅くなってすいませんでした。

だいぶんふざけた問答ですが、楽しんでいただけましたでしょうか。

昔話は、おっしゃるように時代と共にソフィスティケイトされていますよね。
実は、新しいヴァージョンの昔話を聞く機会があって、驚いたのがきっかけです。
今、まさに、さらに変わってきています。
こんなにどんどん変わっていったら元ネタが行方不明になるのではないか といらぬ心配をしてしまいました。
すでにずいぶん変わっていますから、いまさらですね。

子どもの心は、大人が思っている以上に丈夫で健康な気がします。

コメントをありがとうございます。

1404: by 火消茶腕 on 2013/06/21 at 18:31:01

面白かったです。

マッチョな太郎が大暴れ。

次作の参考にさせて頂きます。

1407:Re: 火消茶碗様 by しのぶもじずり on 2013/06/21 at 23:06:22 (コメント編集)

あざーっす。
火消茶碗さんのSSも>面白かったです。
読み逃げしましたすいません。
最初の作品、身につまされちゃって。

> マッチョな太郎が大暴れ。
>
> 次作の参考にさせて頂きます。

楽しみにしています。ぼちぼち読ませていただきます。

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