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くれないの影 第六章――9



 波止女母子は、 すっかり風邪を引いてしまった。
 藤伍の仕込んだ眠り薬で眠りこけ、
 目覚めたのは 寒風の吹き込む縁側だったのだ。

 やっと回復してみれば、 都からの使者が来ていた。
 帝からの御赦しが出て、 綺羅君が朝廷に返り咲くという。
 大いに慌てた。
 使者は 赦免を伝えたばかりではなく、 丁重に都への帰還を願い出たのだ。

 同時に、 治天の君が病に臥せったという報せが、 波止女家からもたらされた。
 まだ さほどのお年ではない。
 幼い東宮は 病弱である。
 帝には 他に男子がいなかった。
 もしかしなくても、 もしかする。
 とんでもないことになりつつあった。
 綺羅君でさえ 予想外の展開だろう。

「日鞠、 煌めきの君には いまだお妃がおられぬ。
 好機じゃ。 鳥座にかまけている場合ではない」
「はい、 腕によりをかけて」

 日鞠は、 自分がきっぱりと振ってしまったことなど 覚えていなかった。
 世の中の流れが 大きく変わろうとしていることにも 無頓着だった。



 都茱と隼人の給金が出た。
 鹿の子の『影』の報酬も はずんでくれた。
 すっかり無くしてしまった 一座の旅支度と軽業の道具を新調することができる。

 何故か 平題箭謙介が纏わり付いて、 なにくれとなく面倒を見てくれる。
 新品の大八車を 格安で手配したり、
 知り合いを使って 全員の着替えを仕立ててくれたり、
 食べ物を持たせてくれたり、
 軽業で使う道具を作れる 腕の良い職人を見つけてきたり とまめまめしい。
 無愛想な謙介が 黙々と手伝う様は、 鬼気迫る感じさえする。

「あの人 軽業師になりたいのか」
 伸び始めた髭を 大事そうに撫でながら、 逸が不思議がった。
「それは無い。
 幸い みんな無事だったんだし、 許してやろうじゃねえか。
 姫さんの為に 汚れ仕事を引き受けたんだろうよ。
 焼けた舞台も 俺たちの物って訳じゃねえしな」
 藤伍が さらりと言った。

「くそっ、 そういうことか。
 あたしゃ嫌だね。
 デコピンの一つもお見舞いしなくちゃ気が納まらないよ」
 紫苑の啖呵(たんか)に 隼人が 自分の額を押さえた。
 紫苑のデコピンは 痛い。

「そういえば、 あの火事の時のことを まだ聞いていない」
 鹿の子が みんなの顔を見回す。



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コメント
670: by lime on 2012/10/11 at 18:31:49 (コメント編集)

綺羅君、もしや、すごいことに。
これは、お妃選びが楽しそうです。
やっぱり女でないと、だめでしょうかね。

671:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/10/11 at 19:04:02 (コメント編集)

綺羅君のお妃は、ヘンタイに耐えられる人がよいのではないかと思います。
どうなるのでしょうね。

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