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くれないの影 第六章――7



 紅王丸は、月の光に融けて…… 消えた。

「ええーっ、 何?  何で消えちゃうの」
 鹿の子が けたたましい声をあげる。

 綺羅君が、 何事も無かったかのように てくてくと来て、 部屋に上がった。
「すでに亡くなっている」
 崩折れる白菊の体を、 陽映の逞しい腕が支える。
「嘘ーっ!  だって会ったもん。 話したもん。 笑ってくれたもん。
 そんな訳ない」
 鹿の子の声は 悲鳴に近い。

「長く都に居ると、 霊には馴れてくるのだ。
 当の幽霊殿に聞いたから 確かなのだ。
 随分前のことらしい。 千種という娘が話したという。
 紅王丸を解放しろと進言したら、 白菊姫が激昂した。
 それが元で 酷い火傷を負った。
 白菊姫は 痛みに耐えながらも、
 うわごとのように 紅王丸を出してはならぬと言い続けたと。
 そのとき知ったのだ と言っていた。
 自分は 姉にとって 障害にしかなりえぬ存在なのだと。
 千種の懐剣を奪い、 喉を掻き切ったらしい。
 土蔵に 未だ骸(むくろ)がある。 楓模様の袿が掛けてあった。
 千種が何も言わなかったのは、 すでに 正気ではなかったのだろう」

「わらわが…… 殺し…… た」
 途切れ途切れの呟きを、 陽映が抱きとめる。

「違うぞ。 紅王丸が 自らを殺したのだ。
 きっと その間違いにも 気づいている」

 鹿の子が出会った時には、 すでに この世の人ではなかったのだ。
 五葉が正しかった。
 役目でなければ、 傍に居るのも嫌なほど恐ろしい と言っていたが、
 幽霊ならば 当たり前だ。
 どうして分からなかったんだろう。
 誰も気づかなかったのは、 それを拒んだ 紅王丸の目くらまし。
 死んだことを後悔していたからなのか。

 鹿の子は だんだん腹が立ってきた。
 せっかく出会えたと思ったのに、 あんなにきれいな人なのに、
 自ら死を選ぶなんて 大馬鹿野郎だ。
 大間抜けだ。
 どんなに辛くても、 生きていればこそ、 人間は変わることだってできる。
 新たな道を探すことだってできるのに。
 こんちくしょう。 いまさら泣くこともできない。

 鹿の子は 向きを変え、 白菊を正面から見据えた。
「白菊様。 紅王丸様が許すといったのです。
 生きて、 幸せになってください。 あの方の分も」
 その声は、 まるで 姫領主の命令のように、 重々しく響いた。
『影』 の最後の仕事だ。

 人間は 完全にはなれない。
 時として、 悲しいまでに間違いを重ねてしまう。
 それでも、 幸せになったって良いじゃないか。

 まんまるい月は美しいが、
 欠けて 十九夜の 臥待月(ふしまちづき)だって 悪くない。



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コメント
664: by lime on 2012/10/09 at 18:59:53 (コメント編集)

うわあ~、紅王丸登場。鮮やか。かっこいい~。やっぱ、綺麗な若君はいいわあ~と喜んでいたら。
なんと。もう、この世のものではなかったと。
だから、牢を抜け出せたのか。
鹿の子、ショックですよね。
悲しい人です、紅王丸。かわいそう・・・。
ちょっと、白菊を恨みたくなるけど、紅王丸が許したんだから、私も許しましょう><

白菊と 陽映、もう心配いらない雰囲気ですね。
心配なのは、鹿の子。彼女の恋は、なかなか実りませんね。

665:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/10/09 at 19:17:06 (コメント編集)

紅王丸の登場シーン、かっこいいと思っていただけましたでしょうか。

内緒の話なのですが、このシーンを書くために、紅王丸になりきって、動きを考えました。
結果、『真一文字に すらりと太刀を抜き放った』わけです。
長い定規を持って、すらりとやったのです。
ご近所様には見せられません。

「紅王丸の立ち回りが、美しい」と言ってくれた友人にも、これは内緒です。

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