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赤瑪瑙奇譚 第一章――2


 翌々日、ユキアは 別荘にいた。

「ホジロ、 また怪しげな実験をしているの」
「怪しくはないが、 実験は 常時やっている」
 ユキアの問いに、 ぼうっとした冴えない風貌の青年が答えた。

 一つに括っただけの、 ぼさぼさの髪をかきむしる。
 ホジロは 別荘の管理を任されている 下っ端貴族だが、
 商売上手な商人をしていた父が、 貧乏貴族から 位を買ったというだけのことで、
 生まれも育ちも下町だ。
 片っ端から 色々なことに興味を持ち、 実験やら 調査やらと 妙なことに忙しい。
 この別荘も今や ホジロの実験室と化している感がある。
 ユキアとは 馬が合う。

 部屋の扉が 叩かれた。
「入っていいよ。 何?」
「お食事の用意が 出来ました。
 ユキア様の分は、 離れに運んで よろしいでしょうか」
「姫様とわたしとメドリの分は、 わたしが運びます」
 ユキアが 答える。

 これは いつものことだ。
 今のユキアは、 男の子のような姿に 覆面をしていて、
 使用人たちは姫の護衛をする 女衛士だと思っている。
 姫は 一日中離れに篭もって 読書に明け暮れていることになっていた。

 使用人が出て行くと、 ホジロは あきれた顔で 言った。
「やれやれ、 お姫様が 二人分平らげているとはね」
「ここに居ると、 ほっとして お腹が空くの」
「ユン、 今夜も 星を見るのかい?」
 使用人たちの手前、 ユキアとも姫とも呼べない為、 ホジロはこう呼ぶ。

「近頃物騒な話も聞く、 真夜中だから 気をつけて、 剣を持っていた方がいい」
 この季節、 真夜中過ぎの北東の空には 流れ星が多く見える。
 ユキアは 楽しみにしていた。
「分かった」
 悪貨は良貨を駆逐する。言葉遣いもだんだん乱暴になっていく。

 離れから 覆面姿のユキアが 庭に出た。
 月明かりはないが、
 ホジロが まだ実験でもしているのか 窓から明かりが洩れて、 思ったほど暗くはない。
 見晴らしの良い場所まで行こうとした時、 何者かの気配が 通り過ぎた。
 追いかけるように さらに数人。
 いや、 四人、 彼らは ユキアに気づいて立ち止まる。
 やがて、 中の一人が 問いかけた。
「怪しい者を 見なかったか」

「見た」
「どこに行った」
「目の前にいるみたい。
 他人の屋敷に 無断で踏み込んで、 名乗ろうともしないなんて 怪しいわよね」
「……くっ、 邪魔だ」
 互いに目で合図をするや、 いきなり 襲い掛かってきた。
 とっさに応戦する。

 一人一人の腕は ユキアからすればさほどでもないが、
 恐ろしいほど 実戦に慣れていた。
 人を殺したことがある連中だ。
 それも 一人二人ではない。 背筋が冷える。
 町のごろつきを懲らしめたこと ならあるが、
 そういう連中とは 明らかに違う 危険な臭いがした。
 ちょっとまずい かもしれない と思ったとき、 中の一人が 悲鳴を上げて後退った。

 さっき通り過ぎた者が 戻って来たのだ。
 どうやら 只者ではない。
 さほど気負っている風でもないのに、 繰り出される剣の勢いが、 賊を圧倒している。
 敵わないと見てか、 追っ手は 忽ち引いていった。

 いったい こいつらは何者だろう、 と振り向こうとしたとき、
「危ない!」
 声とともに 身体を押し倒された。

 目の前に、 妙な形をした 小さな刃物が 突き刺さった。
 十字の形で 刃が付いているうえに、 わずかに捻りがある。
 曲線を描いて 飛んできたらしい。
 危なかった とほっとして息をついだ時、 変な匂いがするのに気づいた。
 毒だ。 毒が 塗ってある。

 起き上がろうとすると、 ユキアを庇った男の手の甲に 血が出ていた。
 手巾を出して 刃物を持ち、 窓に向かって叫んだ。
「ホジロ!」
 男を引っ張って、 明かりのついている部屋に向かうと、
 ホジロが 驚いたように顔を出した。
「毒だわ。 助けて」
 ホジロに 手巾ごと十字型の刃物を渡す。

「長椅子に寝かせろ。 毒を吸い出さなきゃ」
「わたしがする」
「しかし……」
「大丈夫、 口の中に 傷は無い」
 ホジロは 勢いに負けて手桶を渡し、
 自身は 注意深く刃物を調べると、 戸棚をあさり始めた。
 ユキアは覆面を外し、 傷口から、 毒に侵された血を吸っては 手桶に吐き出す。

 男は 無言で 大人しく手当てを受けている。
 覆面を外しても、 男からユキアの顔は 見えない。
 ふっくらした頬の稜線と、 きりりと括られた豊かな黒髪、
 そして 耳の後ろに三つ並んだ 小さなホクロ。

 ごそごそと何やら引っかきまわしていたホジロが近づき、
 男は頭を抱えるようにして 薬を飲まされたが、
 毒が回ってきたのか、 目がかすみ、 気が遠くなっていった。

「名前は?」
 ホジロが 聞く。
「……カ……ム…ライ……」
「カムライ、 解毒剤が効いてくるはずだ。 安心して、 後はゆっくり 眠れ」

 カムライの意識が薄れていく、 手の甲に触れた 柔らかい唇の感触を残して……。
 そして 途切れた。



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コメント
28: by ポール・ブリッツ on 2012/04/28 at 11:37:27 (コメント編集)

面白くなってきました!!

姉妹だけではなく兄弟のほうも見てみたいです。

続きが楽しみです!

29:Re: タイトルなし by しのぶもじずり on 2012/04/28 at 15:13:36 (コメント編集)

ありがとうございます。

今、ポール・ブリッツさんのところから帰ってきたところです。
面白くて、長居をしてしまいました。

う~ん、ユキアの弟たちは ご期待に添えるかどうか……。

ハードボイルドな奴らではありませんから。
あっ、また余計なことを書いてしまいました。

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