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くれないの影 第六章――3



 土岐野は 袿(うちぎ)をするりと脱ぎ捨て 立ち上がると、
 腕を伸ばして 長押(なげし)の薙刀(なぎなた)をつかむや、
 一気に障子を開け放った。
「何者!」

 一人、 二人、 三人、 四人、 五人とも 見たことの無い顔だ。
 土岐野を見て 全員が抜刀した。

 誰何(すいか)に応える者もいない。
 土岐野は 油断なく薙刀を構えて、 庭に降り立った。

 力量が同じならば、 長い武器は おおむね有利に働くが、 狭ければ逆だ。
 部屋に踏み込ませたくない。

 鳥座の娘子軍(じょうしぐん)は、 勇猛果敢で 男に引けを取らないと近在には知られている。
 土岐野も 腕には覚えがあった。
 女と侮って 無造作に切りかかった一人が、 瞬く間に切り伏せられた。

 くぐもった悲鳴が上がり、 残る四人に緊張が走る。
「曲者(くせもの)じゃ、 出合えー」
 夜を切り裂いて、 土岐野の大音声(だいおんじょう)が 響き渡る。


「なにーっ、 どういうことだ」
 忍び入った曲者たちは その声に驚いた。

「飯抜きの奴がいたんだろうよ。
 あああ、 面倒くさいことになりやがった。
 でも、 それって俺の責任かなあ。 違うよねえ。 止めたし」
 頭目は さらに十人を応援に向かわせた。

「くっ、 急ぐぞ」 と 急き立てる。
 案内の男は 先頭を切って走り出した。
 目当ての離れは 走れば目と鼻の先だ。
 勢いをそのままに 建物の中に飛び込む。

 離れは もぬけの殻だった。
 案内してきた男は、 がっくりとして建物を出る。
「探せ!  隠れているかもしれぬ」
 頭目の指図で 十数人が家捜しするが、 影も形も無い。

 頭目は苛立って、 庭の端に 一人立っていた案内人に近寄った。
「どういうことだ」
「さっき音のした建物は 領主の住まいです。
 ここに居ないとなると、 考えられるのは あそこしかない」
 頭目は 残りを引き連れて、 来た道をあわてて引き返した。


 残された案内人は、 誰に言うとも無く つぶやいた。
「すっかり段取りが狂っちまった。 大丈夫かねえ」
「後は、 あっちに任せればいいさ。 あたしらの出番は 終わりだ」

 木立の影から応えたのは 都茱。
 振り向いた案内人は 藤伍。



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コメント
658: by lime on 2012/10/05 at 19:04:38 (コメント編集)

飯抜きも、いるのですよね。
この曲者たち、数は居ても、恐るるに足らず・・・なのでしょうか。
こっちには土岐野もいるし、あの4人もいるし、ちょっと心強いですね。
綺羅くんもいるし・・・。あ。彼がいるから厄介なんですよね。
まだまだ、波乱がありそうで、楽しみです。

659:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/10/05 at 19:59:34 (コメント編集)

曲者たち、ちょっと間抜けな登場になりましたが、暗殺を請け負うプロ集団ですから、油断はできません。
軽業一座が太刀打ちできる相手ではないのです。
ちょっとそのあたりは説明不足でしたかねえ。

660: by ポール・ブリッツ on 2012/10/06 at 13:22:49 (コメント編集)

ひとりで手練れ三十人を斬るのは至難を通り越して不可能でしょうから、どこかから援軍が出てこないと、土岐野さん討死ですね。

助太刀たちのかっこいい登場を期待してます!

661:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/10/06 at 17:20:04 (コメント編集)

その通りです。

乞うご期待!
もう、こればっか。何か考えなくちゃ。
でもねえ、あまり先のことを書くわけにもいかないし、どうしましょうか。

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