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くれないの影 第六章――2



「うまくいったようだな。」
 頭目とおぼしき男が 辺りの様子を確かめて、 かたわらの男に 囁(ささや)く。

「当たり前だ。 ぐっすり眠ってる」
 答えたのは、 昼間 火事見舞いに来た男だった。
 しゃがみこんで、 門柱にもたれかかって眠る門番のおでこを ぺちゃりと叩く。
 声を潜めてもいない。

「おい、 余計なことをするな。 起きたらどうする」
「大丈夫さ。 このくらいじゃ起きねえよ。
 よく効く眠り薬を、 たっぷりと水がめに入れたからな。
 こんなに ぞろぞろと連れてこなくても 簡単にやれるんだ。
 人数が多過ぎやしないかい」
「何が起こるか分からんから 念のためだ。 さっさと案内しろ」

 頭目は そっけなく言い捨てるが、 実は 同じことを考えていた。
 これほど簡単に忍び込めるのだったら、 応援を呼び寄せて 頭数を増やさなくても良かった。
 しかし、 せっかく来た者たちを 無駄にするのも腹が立つから、 連れてきただけだ。

 後悔していた。
 このままいけば、 眠っている人間を一人始末するだけで 終わってしまいそうだ。
 何か起こってくれなければ 格好が付かない。
 火事見舞い男が案内に立ち、 怪しい影が 次々と門の内に吸い込まれていく。


 よほど奥まで進んだ時、 不意に 物音がした。
 音は、 寝静まった静寂の中に くっきりと響き渡って、
 押し入った者たちを脅かせた。

「今の音は何だ。 確かめて参れ」
 頭目は 配下に命じる。

「寝相の悪い奴が、 何か蹴飛ばしたんじゃないのか。
 寄り道せずに、 さっさとやっつけようぜ」
 案内の男が促すが、 頭目は こだわった。
「万が一起きていて 騒がれては面倒だ」

 探りにいった者が戻った。
「明かりが漏れている部屋があり、 人の動く影が」
 頭目は 五人を選んだ。
「起きている者があるようだ。 静かにさせて来い」

「ちょっ、 ちょっと待て。 騒ぎを大きくすることは無い」
 案内の男が あわてて止めに入る。
 その言い分は正しい。

 だが、 頭目は 失敗続きで苛立っていた。
 二度もやり損なうなど 今までに無かったことだ。
 三度目は 何が何でもやり遂げなくては気がすまない。
 たかが都人一人を始末するのに、 これ以上の失敗は我慢できなかった。

 しかも、 配下の頭数は 無駄に余っていた。



 白菊は 食事を摂ろうとはしなかった。
 手付かずの膳が 部屋の隅に寄せられている。
 おかげで、 土岐野も夕飯を食べ損なった。
 まだ いつもの季節には早かったが、 部屋を暖めようと 火鉢に火が入れてある。
 かけた鉄瓶から 湯気が上がっていた。

 土岐野は、 せめて湯冷ましを飲ませようとして 湯を汲んだ。
 たっぷり入れてあった湯が 残り少ない。
 明るいうちに用意してあった水差しから、 鉄瓶に水を継ぎ足し、
 蓋を閉めようとして 熱くなっていた柄に手が触れ、 取り落とした蓋が 大きな音を立てた。

「申し訳ございません。 不調法をいたしました」
「今宵は 静か過ぎる。
 世の中が 死に絶えたかと思っていたところじゃ。
 どうやら まだ生きているらしい」

「湯冷ましをお作りしております。 今しばらく お待ちください。
 のどを潤せば いくらかご気分も良うなられましょう」
 白菊は 目を閉じることもできず、 天井を睨みつけている。
 傍らには 淡雪がただ丸まっていた。

 土岐野も 不思議に思った。
 いつもなら、 家人たちが動く物音や 声が まだ聞こえてくる時刻である。
 確かに 静か過ぎる。
 宿直(とのい)が任に付くときの 声高な名乗りさえ、 聞いていないことに気が付いた。

 不振な気配が 忍び寄る。



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コメント
656: by 晩冬 on 2012/10/05 at 00:26:53

次回、遂に!!


という終わらせ方ですか。上手いです。
ただ……二度あることは、三度ある(笑)

657:Re: 十二月一日 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/10/05 at 12:28:43 (コメント編集)

いらっしゃい

この第六章が、最終章になります。
上手く盛り上がれば良いのですけど。

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