くれないの影 第五章――12
「煌めきの君が 現れたらしい。 弔いをあげ損なった」
いやそうな口調とは裏腹に、 表情も 態度も さりげない。
言われた男の方も、 表情を変えなかった。
「我らも それを聞き、 帰途急ぎ引き返して 真偽を確かめましたが、 本当のようです」
淡々と報告を告げるのみだ。
「しぶとい方だ。
春に西外れの舞台が 火の気も無いのに焼けたのを幸いに、
たちの悪い夜盗の仕業として収めたが、
生きているのでは 仕方が無い」
口調に合わせたかのように、 やっと 表情が少しだけ曇りがちになった。
「火に巻かれた恐怖から、 おかしくなったと言う話もありまして。
迷子の子猫ちゃん と名乗ったとか、
おうちを聞いても分からない、 名前を聞いても分からない、
その上 鳴いてばかりいる などとも聞きましたが……」
「鳴いて?」
「はあ、 にゃんにゃん にゃにゃーんと。
しかし、 それは冗談だったようです」
「冗談まで報告せんでもよろし」
「気がおかしくなっているなら、 殺すまでもないか と思ったのですが、
たいそうまともなところもあるとのこと。
やはり 始末せねばなりません」
「では、 そうしてもらいましょう」
まるで、 邪魔な野良猫を追い払う話をしているかのようだ。
「ですが 流人屋敷と違い、 領主の館に居るのが面倒です。
人も多く、 警備が厳重で、
我らだけではなんともならないと思い、 人を集めております。
まもなく 応援が到着するはず。 策を練り直します」
「消さなくてはならぬ程のお人にも見えぬがのう。
都に在っては 力ある存在なのであろうよ。
上つ方のお考えは 今ひとつ解りませんね。
おお、 そうや。 器用な男を拾った。 あれが使える」
「器用とは どのように」
「切ったはずの紐が繋がったり、 何も無いところから 鳩を出したりするのじゃ。
妖術かと思えば さにあらず。
種も仕掛けもある と言うのだが、 目の前でしっかり見ていても分からない。
それで聞いてみた。
人が見ている前で、毒を盛ることが可能かと。
朝飯前だ と笑いよった」
「なるほど 使えますな。
ならば 邪魔の入らぬ内に さっさと片付けましょう」
「邪魔が入りそうなのか」
「長引けば」
第六章につづく
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