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くれないの影 第五章――9



 鹿の子には もう一つ 心配なことがあった。

「お二人を 狭い土蔵に一緒に置いて 大丈夫かしら。
 綺羅君は…… そのう…… 見境のない方だし、
 紅王丸様の身に…… 危険が……」

「大丈夫です。
 いくら綺羅君様が物好きでも、 あの恐ろしいご様子では 手をお出しになるとは思えません。
 お役目でなければ 私も お傍には行きたくないくらいです。
 それに、 紅王丸様は、 見た目は 女人のように たおやかでお美しい方ですが、
 お小さい頃から 『鳥座の小天狗』といわれるほど 武術に長けたお方。
 お心を壊されたからといって、 ご自分の身はご自分で守れます。
 都人の公達では お相手になりません」

「でも 閉じ込められちゃったんだよね」
 そんなに強いのなら、 何故、 むざむざと 土蔵に閉じ込められたりしたのだろう。
 逃げればよかったじゃないか。
 鹿の子は 単純に疑問を感じた。

「それは、 白菊様が 土蔵に入れ とお命じになったからです。
 はじめに 家人たちが 無理に閉じ込めようとして、 できなかったと聞いています。
 わたしが心配なのは、 むしろ 綺羅君様のほうでございます。
 土蔵に置き去りにするのが心もとなく、 本当に大丈夫ですか と念を押しましたが……」
「綺羅君は なんと……」

「いと 面白きかな。 と仰せでした」
 鹿の子は、 ある意味 安心した。
 綺羅君にとっての色恋沙汰は、 習い性というか、 事のついで のような気がする。
 面白い と言うことがあるかもしれないが、 『いと』まで付けないだろうと。

 綺羅君が 本当に興味を持つとしたら、 もっと 違うものだと言う気がしてならない。
 なんとなく、 ではあるけれど。

 一体 何が気に入ったのだろう。
 鹿の子にとって、 何から何まで 意外な話だった。


            *          *          *


 北風が 冷たい山おろしとなって 次嶺経の郷を通り抜けた日に、
 鷹巣へ続く山道が復旧した と報せが入った。

 凍えるほどに冷たい北風は、 たちまちのうちに 木々を鮮やかな錦に塗り替えていった。
 赤や黄色の木の葉が、 時折 風に乗って舞い踊る道を、
 十人ほどの修験者が 一団となって通って行く。
 いかめしい姿に似合わず、 足音も立てない動きには 無駄が無い。

 一行が 領主屋敷の門前を過ぎようとして、
 中の一人が 門柱の根元にある引っかき傷に ちらりと目をやり、 立ち止まった。
 すぐさま 他も立ち止まる。

 門柱の傷は 三本の縦線と交差した三本の横線。
 魔封じの『目』だ。



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コメント
645: by 十二月一日 晩冬 on 2012/09/29 at 19:15:58

信頼されてませんね、綺羅君ww
と思いきや、少しそれとは違う、という話か~。
根拠はなくとも、
なんとなく――これだけでも十分、分かるから凄い。生きてて良かった、良かった

646:Re: 十二月一日 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/09/29 at 22:15:21 (コメント編集)

しぶとく生き残っています。綺羅君。

最初のプロットでは、死ぬ予定だったんですけどね~。
死にそうにない。
代わりに……(内緒です)

650: by 園長 on 2012/10/01 at 18:59:17 (コメント編集)

ええっ 最初の予定では死ぬはずだったの?
予定変更で良かったぁ♪
綺羅君の いちファンより(笑)

651:Re: 園長様 by しのぶもじずり on 2012/10/01 at 20:10:07 (コメント編集)

ありがとうございます。
綺羅君、ヘンタイなのに好かれてます。

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