RSS

赤瑪瑙奇譚 第一章――1


「お姉さま!  メドリ、 お姉さまは?」
 マホロバ国の長姫 ユキアの部屋に 勢い良く駆け込んできたのは、 妹姫セセナ、
 可愛らしく 華やかに装った姿は、 いかにも年頃の お姫様らしい。
 問われた若い侍女は、 にっこり と微笑んで答えた。

「ユキア様は いつものように 朝早くから お散歩に出て、 まだ 戻っていらっしゃいません。
 もうそろそろ お昼時ですから、 戻られる頃 とは思いますが」

「着飾れば お美しくもなれると思うのに、
 お姉さまってば、 お散歩と読書にしか 興味を お持ちにならないのね」

 国の誉れ ともいわれる 美貌の両親の子である。
 不細工なわけが 無い。
 むしろ 良いとこ取りをしている とさえ思える顔立ちなのだが、
 目立つことを 嫌っている。

 一般の家でさえ、第一子は 親を始め 大人たちの関心が集まり易い。
 成長に関わる 記念品も 上の子ほど多い。
 ましてや 王家である。
 国中の 関心の的になった上に、
 死人まで出た 伝説のドンチャン騒ぎ の原因だったことに、
 ほとほと嫌気がさしていた。

 ユキアは、 幼い頃から
「徹底的に目立たない、地味な お姫さま」 を目指す という、
 前代未聞の 大計画を立て、 着々と 進行中だった。
 反して セセナは、 人々の注目を 一身に集める姉に 憧れた。
「とにかく、何が何でも目立つ お姫様」 を目標に 成長していった。

 近頃は 二人の努力が報われて、いつの間にか 注目度は 逆転していた。
 セセナの纏う 新しい衣装や 斬新な髪型は、 たちまち評判になり、
 娘たちは 先を争って真似をした。
 マホロバの流行は、 セセナから 発信されると言っても 過言ではない。

「新しいお衣装が 出来てきたので、 見ていただこうと 思ったのに。
 それにね、 良い物を見つけたの。 お姉さまに 絶対似合うわ」

 セセナが 持ってきたのは、 目の覚めるような 大粒の翠玉が、
 一見 素朴に見えるが、凝った 細工の金鎖に付けられている 首飾り。
「素敵でしょ、 石も 細工も 最高よ。
 でも、 わたしが着けると 地味になってしまうの。
 返すのが もったいないから、 お姉さまに 差し上げるわ」

 確かに、 この 深く鮮やかな 緑色の石は、
 セセナが付けても 暗い印象にしか ならないだろう、
 年若い娘が 簡単に従わせることの出来る 石ではない。


「セセナ、 来ていたの」
 ユキアが 戻ってきた。

 品物が良いので、 かろうじて お姫様に 見えなくはないかも、
 という ありきたりな 定番の衣装を まとっている。
 セセナが うれしそうに 駆け寄った。
「お姉さま、 贈り物を 持ってきました。
 もうすぐ 十六歳の お誕生日でしょ。 わたしからのお祝いです。
 この翠玉は 『妖精王の瞳』 という名前が 付いているのですって」

 案外 ちゃっかりしたことを言いながら、 いそいそと 自ら首飾りを ユキアに着けた。
 途端、 セセナとメドリは 目を見張る。

 鮮やかな 翠玉の首飾りを着けた ユキアは、
 どこからどう見ても 気品と華やかさを備えた 立派なお姫様 にしか見えなくなった。
「わたしが見込んだとおりですわ。
 とてもお似合いよ、 お姉さま」
 自分の 新しい衣装もそっちのけで はしゃぐと、 セセナは 満足して帰っていった。


 ユキアは セセナが見えなくなると、
 ゆっくり首飾りをはずし、 丁寧に 鏡台の引き出しに しまった。
「目立ちすぎるわね。 却下」
 メドリは、 やっぱりね という顔で ため息をついた。

「で、今日の訓練は いかがでございましたか」
「今日は 弓の稽古をしてきました。
  飛び道具は どうなのかしら と思っていたけど、
 あれこそは、 気を制する訓練には 解りやすくて 良いかもしれません」

 朝の散歩は、 武術の訓練だった。
 武道の達人は、 気を制して 気配を絶つ ことさえ可能だ と本で読み、
 それが目的で 励み始めた。
 成果が出たのか、
 時折、 そこに ユキアが居ることを 忘れそうになることがある。
 結果、 副産物として、 やたらに強い姫君が 出来上がってしまった。

 指南や稽古場を こっそり手配してくれたのは、 祖父の ホヒコデ王だ。
 王は 孫娘に甘い。 相談を受けて、 誰にも内緒で 段取りを付けてくれた。
 王とメドリの他に、 このことを知るものは居ない。

「メドリも また一緒にしましょうよ」
「いいえ、 私は結構です。
 これ以上強くなっては、 嫁の貰い手が なくなります」

 以前は よく武術の稽古に付き合っていたメドリは、 武人の娘だけあって 素質があったが、
 ユキアのように 大目標が あるわけではない。 近頃は 遠慮することが多かった。
 それでも 一時期 同じ訓練をしていたせいで、 二人は 挙措動作に 似ているところがあった。

「変なことを 心配しているのね。
 ねえメドリ、 そろそろ 別荘に行きたいのだけれど……」
「かしこまりました。手配いたします」

 城下町ウケラの外れ、 小高い丘の上に 瀟洒(しょうしゃ)な王家の別荘がある。
 他に 風光明媚な海辺と 高原の森に 豪華な別荘があるため、
 城の目と鼻の先にある そこが 使われることは ほとんど無い。
 静かな場所で ゆっくり読書に浸りたい という名目で、
 たまに ユキアが 息抜きに訪れるだけである。


戻る★★★次へ
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
26:はじめまして by ポール・ブリッツ on 2012/04/27 at 19:06:32 (コメント編集)

なんか悲惨な未来が待ち受けているような……。

外国の軍隊に囲まれ、「ユキアお姉さま! ここはわたしがおとりになって敵をひきつけます! その隙にお姉さまは早くお逃げを!」とかいう光景がまぶたの裏にちらつくんですが気のせいですか気のせいですよねそうだ気のせいなんだはっはっは……そんな未来じゃありませんよね、これ、ユーモアものですよねっ(^^;)

27:Re: はじめまして by しのぶもじずり on 2012/04/27 at 19:48:39 (コメント編集)

ようこそ お越し下さいました。

わっはっはっは、そういうシーンはないです。

冒険ファンタジーのつもりですから、立ち回りはありますけど……。
いかん、いかん。うっかりストリーを書いちゃいそうだ。

こういうときに便利な言葉、「乞う ご期待!」と言っておきます。 

1077: by デジャヴ on 2013/01/27 at 14:17:51

こんにちは!
続きを読みに来ました。
いえ、実はもう先を読んでいるのですが、セセナに関してどうしてもコメントを残したかったのです。
セセナ姫、マリーアントワネットみたい!
それだけを言いたかったんです(笑)
セセナ姫はたった一話で物凄く印象に残りました。
彼女のようなマイペースなキャラは大好きです。
それでは続きを読んできます^^

1079:Re: デジャヴ様 by しのぶもじずり on 2013/01/27 at 18:44:24 (コメント編集)

セセナを気にって頂いてありがとうございます。

出番の少ない脇キャラですが、女としては意外に大物だと思っています。
結局、自分の意思を通してしまいますし、最後は一番幸せになったんじゃないでしょうか。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア