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くれないの影 第五章――8



 夕暮れが迫ろうとする頃になって、 五葉が やっと部屋に来た。

「五葉さん。 お腹がすいたわ」
「あっ、 はい。 すぐに 夜具のお支度を」
「お腹がすいたって言ってるの」
「そうでございますね。 湯殿の様子を見てまいります」

「こらっ!  い・つ・は!  しっかりしなさい」
 鹿の子の大声に、 五葉は びくんと体をこわばらせた。
 心が、 遥か彼方に お出かけしていた様子だ。

 鹿の子だって 若い娘だ。
 いくらなんでも 直接は聞けない。
 『押し倒されたの?』 なんてことを、 どうやっても 口には出せない。
 あらぬ妄想を追い払い、 別の切り口を探した。

「何処に隠したの?」

「ひやあああ!  な、 な、 何……を、 を、 をです……か」
 なるほど、 何かを隠したことだけは 間違いがなさそうだ。

「綺羅君を、 何処に、 隠したの?」
 鹿の子は、 一言一言、 ゆっくりと繰り返した。
「ぎょえー、 な、 な、 な、 な、 な」
「何故知っているのか 聞きたいのね」
 五葉は 口をパクパクさせながら、 思いっ切り何度も頷く。

「えへん、 あたしを 誰だと思ってるの」
「お気楽な軽業娘」
 そこだけは 極めて冷静に答える五葉だった。
 間違ってはいない。

「我こそは、 神出鬼没の軽業娘よ! 
 だから知っているの。 五葉が 綺羅君をかくまったことをね。
 白状しなさい。 何処に隠したの?」
 鹿の子は 危うく立ち直った。

「土蔵です」
 五葉は観念した。

「……土蔵」
 微妙に空いた間を 勘違いした五葉は、 せっせと説明を始めた。

「弟の紅王丸様が、 父上様の突然のご逝去に耐え切れず、
 お心を壊してしまわれた という話は聞いていると思います。
 紅王丸様を閉じ込めた土蔵があって、 そこには 私しか出入りをしません。
 誰にも見つかる心配の無い 唯一の場所なのです」

「紅王丸様は…… 本当に…… お心を壊されているの? 
 嘘なんじゃあないの」
 ここぞとばかりに、 鹿の子は探りを入れた。

「本当だと思います。
 私がお食事を運んでいますが、 青白いお顔で 隅に黙ってお座りになるばかりで、
 話しかけても お返事をなさることはありません」
「お返事をなさらない……。 五葉が怖いんじゃ……」
「そんなことはありません。
 お元気だった頃は、 よく話しかけていただきました」

 どういうことだろう。
 確かに 顔は青白かったかもしれない。
 しかし、 それは 長い間陽に当たっていないからではないか。
 返事もしない という事もおかしい。
 鹿の子とは ちゃんと話をしたのだ。

 どちらが 本当の紅王丸だろう。
 鹿の子には もう一つ 心配なことがあった。



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