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くれないの影 第五章――3



 焼け跡に 綺羅君を探しに行った者達は、 手ぶらで帰った。
 流人の屋敷は 柱も倒れ、 屋根も落ちて みるも無残な有様だった。
 探すまでも無く、 全てが きれいに焼け落ちていた。
 辺りに 綺羅君の痕跡すら 残ってはいなかったという。

 結局、 鹿の子は、 泣き腫らした赤い目で 落ち着かないまま、 その報せを聞いた。

「我らが行った時にも、 まだ 煙がくすぶっておりました。
 すっかり焼け崩れた隙間から、 赤く燃え続ける熾き火が見えるほどで、
 あの様子では、 骨も残っているかどうか。
 焼け跡を取り片付けることもままなりませんので、
 水など掛けて、 冷えるのを 待っているところでございます」

 煙がくすぶって、 隙間から 赤い熾き火が見えて……、
 きっと 焦げ臭かったに違いない。

 聞きながら、 鹿の子の目に思い浮かぶ光景があった。
 焼け崩れた舞台と共に 居なくなってしまった仲間たち。
 親方の 藤伍(とうご)、 おかみさんの 都茱(つぐみ)、
 三日月のようにきれいな眉をした 紫苑(しおん)、 軽業の相棒 隼人(はやと)、
 大きな力持ち ガジ、 髭面の短剣投げ名人 逸(とし)、 囃子方の 太った 権佐(ごんざ)、
 みんな居なくなってしまった。

 …… でも…… なんだろう、 声が聞こえる。
 鹿の子を呼んでいる。

「焼け出された者の中に、 行く当ての無い者が 四人居ります。
 お屋敷に置いてもらえないか とすがりつかれました。
 いかがいたしましょう」
「当てが無いというなら、 路頭に迷わせるわけにもいくまい。
 隅になりと置いてやれ」
 物思いにふけっているところを 不意に尋ねられて、 とっさに答えたが、
 白菊ならどうしたろう、 と よぎった不安を 力で切り捨てた。

 あたしは鹿の子。 白菊姫じゃない。

 いっとき おかしくなっていたけど、 もう大丈夫。
 例の得意技を 立て続けに使いすぎたせいだが、 たぶん それだけじゃない。

 誰も 鹿の子を 鹿の子と 認めてくれる人がいなかった。
 名前を呼んでくれる人さえ いなかった。
 だから 鹿の子は 鹿の子でいられなくなったのだ。
 自分自身の居場所も 形も 見失っていたのだ。

 でも、 紅王丸が 名前を呼んでくれた。
 寿々芽も 呼んでくれた。
 そうして 目を瞑れば、 一座のみんなが 鹿の子を呼ぶ声が聞こえる。

 あたしは 一人ぼっちなんかじゃない。
 大好きな人たちが、 あたしを作ってくれたのだ。
 育ててくれたのだ。
 そんな大切な自分を、 もう失くしたりなんかしない。

 あたしは 鹿の子。

 山道に捨てられて、 着物は ぼろぼろになっても、
 ただ一つ残った、 三尺帯の 紅鹿の子(べにかのこ)。
 これから先も、 あたしの名前を呼んでくれる人は、 きっと たくさん現れる。

「その者たちの面倒を、 手厚く 見てやれ」
 公然と顔を上げ、 はっきりと 命じた。



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コメント
601: by 十二月一日 晩冬 on 2012/09/22 at 18:56:19

焼け落ちた風景に、彼等を見てしまいましたか。こりゃ大事なシーンだ。
……この分だと、どうやら合掌の準備しておいた方がいいようですね。

602:Re: 十二月一日 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/09/22 at 19:29:47 (コメント編集)

このシーンは、気に入っています。
元気そうに見えても、出自も分からず、芯が頼りない娘が、ちょっとだけ目覚めたシーンです。

607:こんにちは。 by かじがやごろぉ。 on 2012/09/23 at 14:15:50

さきほどは

メッセージをいただいて ありがとう。
あは・たすかりました。
これからもね 文章を見ていていただけたらね
たすかります。  文章、苦手じゃぁ。

いつも、ホントにありがとう。 ごろぉ。

608:Re:かじがやごろぉ様  こんにちは by しのぶもじずり on 2012/09/23 at 15:25:47 (コメント編集)

ちょっとしたかん違いでしょ?
そんなに大層なことではないです。

いつも楽しみに拝見しています。
文章も味があって、良い感じです。苦手には見えないですよ。

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