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くれないの影 第四章――14



 屋敷に戻り、 陽映が部屋に納まると、
 例によって 縁側から綺羅君が現れた。
 婿君のお友達として 出入りを黙認されているのだから、 普通に入ってくればいいものを、
 縁側から 突然湧いて出るのが 癖になったらしい。

「牛車は いかがであった。 気に入ってもらえたろうか」
「鹿の子は、 牛の尻尾が いたく気に入ったようです」
「おお、 なかなかの通(つう)じゃ。 して、 陽映殿は」
「私は牛より馬の尻尾……
 あ、 そうじゃなくて、 内緒の話ができるのが 気に入りました」
「ふ~ん、 したんだ、 内緒話。 この浮気者」
 綺羅君は、 分かっていても 茶化さずにはいられないらしい。

 陽映は 相手にしないと決めた。
 かまわず伊織に目配せをする。
 伊織は立ち上がり、
 廊下の先、 庭の陰、 周囲の部屋を確認してうなずいた。

 陽映は、 綺羅君に向き直って言う。
「林の中で 賊に教われました」
「そんな荒っぽいことをするだろうか」
 この返事は 心当たりのある証拠だ。
 何処まで知っているのだろう。
 侮れないお人だと、 陽映は内心嘆息した。

 鹿の子が言ったように、 陽映も 綺羅君が本当に調べるのかは半信半疑だったが、
 自分が動くわけにもいかない。 
 栗右衛門と 人当たりの良い伊織に、
 それとなく 鳥座家の内情を探るように命じてあった。
 惣右衛門が言い出さなくても、
 周辺の情報から、 いずれ 同じことを思いついたことだろう。

 しかし、
「あっという間に 引いていきましたが」
 そこが どうにも気になるところだった。
 陽映の言葉に、 伊織も反応した。

「本当に。 襲ってきておきながら、 陽映様が姿を現すや否や、 さっさと逃げました。
 かなりの手練(てだれ)と見ましたが、 根性が無さすぎる。
 無論、 陽映様が むざむざ討ち取られることはございませんが、
 死ぬ気で来られたら 苦戦するところでございました。
 刺客のくせに 諦めが早すぎます」

 襲われる身にすれば、 刺客に根性が無いのは ありがたいはずだ。
 伊織のちょっとずれた感想に、
 綺羅君は 一度目を見開くと、 珍しく真面目な顔で考え込んだ。
 一つうなずいて 口を開く。
「なるほど」
「って、 それだけ?」
 伊織が 肩すかしを食らって、 よろめいた。

「今夜は この屋敷にお泊りになられますか」
 陽映が尋ねたのは、 もう一つの可能性が有力だと考えたからだ。
「ん~。 もう一押しなんだけど、 閨(ねや)までは入れてくれそうに無い。
 それに、 やりすぎると また生霊が出来そうだから、 今宵は帰る。
 流人屋敷にも わずかながら 使用人がいることだし、 あれらをなんとかしなくては」

 のんきに生霊作りに励んでいる場合ではない、
 と突っ込みたくなるのを 陽映はかろうじて堪(こら)えた。
 狙われたのは 陽映でも白菊でもない。
 牛車だ。
 おそらくは、 牛車にいつも乗っている 綺羅君が狙われたのだ。

 綺羅君が いつか言っていたではないか。
 近頃、 国司から遊びに来いとしきりに誘われると。
 そのことを知る者が襲うなら、
 あそこは 見通しも悪く、 人目に立たない絶好の場所だ。

「では、 牛車をお借りしたお礼に 伺います。
 秋の日は釣瓶落とし。 今からいけば 日も暮れましょう。
 泊めていただくことになります」

 陽映の言葉に、 綺羅君は笑った。
「うふっ、 お友達はよいのう。 では、 今夜は しっぽりと……」



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コメント
574: by lime on 2012/09/16 at 17:52:18 (コメント編集)

そっか、狙われたのは綺羅君。

最初、綺羅君を(きらくん)と読んでしまっていて、ごめんなさい><

それにしても。
「では、 牛車をお借りしたお礼に 伺います・・・」って、なんか意味深でおもしろいです^^
しっぽりと、行ってほしいところですが。

575:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/09/16 at 18:07:22 (コメント編集)

もう、きらくん で良いですよ。
私も入力する時、「きらくん」で打ってますから。

襲撃者が根性を出さなかったのは、そういう事でした。

> しっぽりと、行ってほしいところですが。
いっちゃいかんでしょう。ランキング登録のカテゴリーが違っちゃいます。
とか言いながら、ちょいちょいそれ風味を入れてしまう私。

578: by 園長 on 2012/09/17 at 19:03:17 (コメント編集)

なるほど 狙われたのは綺羅君かぁ。
あのお気楽さは あなどれないかもしれない。
だけど伊織の
刺客に根性がないっていうセリフには吹いたわ。

そういえば息子の友人で
池から釣り上げたとたん スルメから手を放して
まんまと逃げおおせたザリガニに
「エサから手を放すなっ 根性がなさすぎる!」と
説教していた子がいたなと
関係ないことまで思い出しました。

579:Re: 園長様 by しのぶもじずり on 2012/09/17 at 19:17:00 (コメント編集)

わっはっはっは、 ザリガニに説教ですかぁ。
根性のありそうなお子さんですね。

でも、根性の無しのザリガニは生き延びたわけだ。
根性もケースバイケースで使い分け?

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