FC2ブログ
RSS

くれないの影 第四章――13



 陽映は 憮然として、 再び牛車に乗った。

 陽映だって、 何かあると感づいてはいたのだ。
 白菊を姉と思って親しくしたいとか、 姉が宮中に上がってしまって寂しい とか言っていたが、
 日鞠には、 腹違いの兄弟姉妹が 掃いて捨てるほど居るはずなのだ。
 あからさまに 嘘くさい。

「どなたが 歌って踊るんですか」
「忘れなさい」
 鹿の子の無邪気な質問を、 じろりと睨んで 封じた。
 見た目がそっくりなのに、 中身がまるで違う娘を思って、 感慨深かった。

 そして、 新たな疑問に思い至る。
 弓矢の賊に短剣を投げたのは 何者だろう。
 行く先に待ち伏せていたのだ。
 後ろから来た四人には、 道が曲がっていた上、 牛車が邪魔をして 見えなかったはずだ。

 牛のお尻で揺れる尻尾を、 のんびり眺めている鹿の子の隣で、
 陽映は真剣に考えていた。


 国司への挨拶を無事に済ませて、 屋敷に帰ろうとしたとき、
 陽映は 襲撃を伏せておこうと言い出した。
 襲ってきた者たちのことも 理由も 定かではない。
 何か理由をつけて、 屋敷の警護は厳しくしなくてはならないだろうが、
 判明するまでは、 不用意に騒ぎ立てないほうが良かろうとして、 黙って通すことにしたのだ。
 惣右衛門も同意した。
 陽映には、 まだ 他にも気になることがあった。



           *       *       *


 にぎやかに出発した牛車の一行を見送り、 土岐野は 白菊の様子を見に行った。

 陽映が来てからというもの、 『影』の出番が増えていく一方だ。
 よく通る陽映の声が、 遠くから聞こえてくることがあるものの、
 白菊とは どんどん距離が離れていく。
 すぐ近くに居るというのに、 遥かに遠い存在になりつつある。
 白菊を置き去りにして、 事態は進んでゆく。
 どんな想いでいるのかと思うと、 気が気ではなかった。

「無事、 国司様へのご挨拶に お出かけになられました」
 声をかけるが 返事は無かった。

 様子は 変わらないように見える。
 しかし、 『影』を乗せるつもりだった輿が 間に合わないと知った時、
 怒りもしなかったのが気になった。
 国司への挨拶が遅れてもかまわない と、 内心思っていたのではなかったろうか。

 変わらない様子が、かえって心配だった。
 壊れるのなら、 まだ良い。
 壊れもしない強さが、 土岐野には 不憫だった。

 このままいけば、 白菊の存在そのものが宙に浮く。
 淡雪が 部屋の隅に うずくまっていた。



戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
572: by 十二月一日 晩冬 on 2012/09/15 at 19:06:41

陽映の対応は無難と云うよりも流石。

>壊れるのなら、 まだ良い。
 壊れもしない強さが、 土岐野には 不憫だった。

これ以上ない表現でぐいぐい来ますね

573:Re: 十二月一日 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/09/15 at 19:56:08 (コメント編集)

ありがとうございます。

このまますんなりとは終われません。
波乱は続きます。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア