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くれないの影 第四章――12



「何でも 女人を追いかけて、 九十谷(くそだに)まで行ったことがあるから、
 専門家なのだ とうそぶいておられた」

「何故そこに、 九十谷なんてものが出てくるんです?」
「代々、 九十谷から 御所忍(ごしょしのび)を輩出しているとか。
 極秘事項らしい」
 御所忍とは 帝直属の忍である。
 帝の身辺を 秘かに護るのが仕事であるが、
 帝の命があれば、 およそ何でもやる陰の組織である。
 その存在を知る者さえ、 ほとんどいない。

「御所忍?  もしかして 忍者ですか。
 極秘って、 あれっ?  しゃべっちゃってるじゃないですか」

「せっかく 忍の郷(さと)に行ったのに、
 捕らえてもくれなければ、 拷問もしてくれなかった。
 今頃になってくやしいから、 言ってやる。
 とか 訳の分からないことを仰せだった。
 御所忍というからには、 おそらく 帝の配下だろう。
 弟君にそんなことをするとも思えない」

 牛車に揺られながら 二人が話し合っているうちに、 美しい林が見えてきた。

 国司館の手前には 林があり、
 まもなく 冷たい山おろしが吹けば、 一斉に 色とりどりの紅葉を競うはずだ。
 次嶺経守も たいそうお気に入りで、
 嘘か眞か、 受領に居座るのは この林を愛(め)でんが為、 と公言していた。


 事が起こったのは 林を抜けてゆく道が 曲がったところ。
 牛が 進むのを嫌がった。
 いぶかる間も無く 木々の陰から 数人が飛び出し、
 剣を抜き放って 牛車の行く手を遮った。

 後ろを進んでいた伊織と謙介が、 すかさず剣を抜き 牛車に向かって走る。
 陽映が簾(すだれ)に手をかけた時、 先の方から悲鳴が上がった。

 弓を手に待ち 構えていた者が、 肩に短剣を受けて取り落とし、 呻(うめ)いていた。
 襲ってきた者たちが 振り向いて舌打ちし、
 一人が切り込もうとして 牛車の方立(ほうだて)をつかんで 身を乗り出したが、
 陽映が なぎ払いざまに 飛び降りる。

 その時には 伊織と謙介も 賊に切りかかった。
 おとぼけ伊織も、 実は 剣の腕は確かだ。
 たちまちのうちに不利を悟ったのか、 後をも見ずに 賊は逃げ去った。

「弓矢か。 危ないところだった。 助かった」
 陽映の声に、 伊織と謙介は 顔を見合わせた。

「あれっ、 どちらも違うのか。 誰だろう。
 なんにしても 用意周到なやつらだな。 ただの野盗とも思えぬ。
 何故 襲ってきたのだろう」
 明らかに命を狙われたというのに、 平然として 理由を考えている陽映を 頼もしく見ながらも、
 惣右衛門は青くなった。

「まさか ここまでしようとは……」
「惣右衛門殿には 心当たりがありそうだ」
 陽映に睨まれて、 惣右衛門は口ごもった。

「いや……、 この度のことが 確かにその筋のしたこととは申せませんが、
 もしかして というほどの心当たりなら 有りもうす」

 惣右衛門の懸念は 波止女家のことだ。
 くれぐれも 確かな証拠があるわけではない と繰り返しながらも、
 考えていたことを語った。

「拙者の考えが当たっているなら、 陽映様の存在は 一番の障害にござる」

「ああ、 それで、 歌って踊れる宮廷武官が出てきたんですね。
 いきなりモテ始めて おかしいと思っていました」

 伊織の言葉に、 陽映以外の全員が、 不思議そうに首をかしげた。



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