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くれないの影 第四章――5



「白菊やー  ああ 白菊や  白菊や  もっと虐(いじ)めて  縛って ぶって  あは~~ん  字余り」

「わざわざ…… 字余り……。
 うむむ、 『あは~~ん』 を、 どうしても入れなくては 駄目なのでしょうか」
 伊織が隣りで、 真剣に指を折り、 字数を数える。

 陽映は 思わず爆笑したが、 『姫』は 爆発寸前だった。
 これは どう考えても 大失敗だ。
 乙女が笑えるネタではない。 およそ 限度を超えている。
 やはり 人選を間違えたというしかない。
 笑えない。

 『姫』は―― 鹿の子は、 いや、 白菊の『影』は こめかみを引きつらせた。

 鹿の子ならば、 くったく無く 笑い転げたのかもしれない。
 しかし、 そこに居るのは 鹿の子ではなかった。
 完全に 白菊の影と化した 存在だった。

 計画の失敗を悟った三人が 凍り付いて、 時が止まったかのように見えた時、
 上空から 一羽の鴉が舞い降りた。
 咥えた物を 地面に下ろし、 カァー と得意げに鳴く。

 『影』が ゆっくりと動き、
 鴉が咥えてきた赤い簪(かんざし)に 手を伸ばした。
「……す……ず……め……」

「鴉ですから!」
 図らずも、 三人が 同時に大声をあげた。

 『影』が―― 鹿の子が 笑った。
 寿々芽が落とした簪を 拾い上げて 握り締め、 抱きしめる。
 胸に押し当てられた 赤い珊瑚玉のところから 呪縛が解けて、
 鹿の子が 開放されていった。
 同時に 綺羅君のヘンな歌から続いていた緊張も解け、 一気に 穏やかな空気が流れる。

「この子の名前なの」

 にっこりと笑った鹿の子の顔を、 陽映が 覗きこむように見た。
 周囲の穏やかさにそぐわぬ 真剣な眼差しを注ぐ。

 そして、 正面から 鹿の子を見据え、 静かに言った。
「そなたは、 誰だ」

 伊織が 息を呑んだ。
 綺羅君は 面白そうに 目を見張った。

 そして、 鹿の子は 凍りついた。


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