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くれないの影 第四章――2



 性懲りも無く、 翌日も 日鞠と蓉は 陽映の部屋に押しかけてきた。
「陽映様。
 都に出て、 粋でお洒落(しゃれ)な宮廷武官になる決心は おつきになりましたか」

 しかし、 日鞠の問いかけにも応ぜず、
 陽映は むっつりと押し黙って考え込んでいた。
「どうなさったのですか。 ご様子が変」
 蓉が 目の前でひらひらと手を振るが、 瞬きもしない。

「昨日の午後、 白菊様と二人っきりで お庭を散策なされたのですが、
 お戻りになってから、 ずうっと あんなふうにしておられて。
 思うようにイチャイチャできなかったのでしょうか」
 伊織も心配そうだ。

「それはそうでしょう。 白菊様は お小さい頃から義映様の許嫁でいらしたのでございましょう。
 突然のご変更に 乙女心がついていけないのでは」
「あら、 そうよね。 ふてくされていらっしゃるのかも。
 乙女心は 繊細だから」
 蓉と日鞠が、 とても繊細とは思えない会話を交わし始めた。

「噂では、 義映様のほうが二割がた良い男ぶりで、 頼りになるお人柄とか」
「かなり複雑ね。もしかしてがっかりかも」

 いやでも耳に入ってくる話に、 陽映に闇色の簾が下りてくるように見えて、
 伊織が 珍しくぶちきれた。
「いい加減にしてください。
 いくらなんでも 二割り増しということは無いです。
 せいぜい 一割五分しか負けていません」
 微妙な数字に、 陽映は余計に落ち込んだ。

「だ・か・ら、都に行きましょう。 嗚呼(ああ)、 憧れの都大路」
 日鞠が はじめの初々しさは何処へやら、 だんだん積極的になってきた。


「都の何が良いのやら。
 なるほど いと刺激的ではあれど、 魑魅魍魎(ちみもうりょう)も 盛りだくさんで、
 死霊生霊も うじゃうじゃ居るのだが」
 縁側の影から 綺羅君、 今日も元気に登場。

 鳥座家の家人たちによって張られた『綺羅君防衛線』を、 どのように突破したものやら、
 騒ぎさえ起きていない。
 このところ、 もっぱら 陽映の部屋にしか出没しないため、
 屋形内に入り込んでいるのに 気づかれてもいないようだ。
 摩訶不思議な公達(きんだち)である。

「また お邪魔虫が 湧いてきましたのね。
 死霊と生霊を作りまくったのは、 あなた様だという噂ですよ。 反省してください」
 日鞠が しかめっ面で嫌がったが、 どこ吹く風だ。

「噂というものは無責任ゆえ、 信用するではない。
 生霊しか作った覚えがないぞよ。
 それより、 どうなったのかと気になる。
 ねえ、 白菊姫に ビシバシやられちゃった?」

「はい?  ビシバシって?」
 相変わらず疑問形の伊織を放っておいて、 綺羅君が陽映に にじり寄った。
「あの冷たい視線、 良いよねえ。 ぞくぞくするよねえ。
 苛めてもらった?  いいなあ」
 勝手に盛り上がっている。

「なんですの、 雨上がりのミミズのように のたくたと湧いて出て、
 流人のくせに いらぬことばかり。
 怖い白菊姫なんかよりも、
 明るくお茶目な私のほうが 陽映様には 絶対にお似合いですわ」
 隣で 蓉もせっせとうなずいている。

(明るくお茶目……。 そうだ!)
 陽映は 綺羅君をじっと見つめて考えた。

「そんなに熱く見つめられるのは久しぶり。 照れるなあ。
 お友達からでよければ」

 陽映は 迷わず縁側に進み出ると、 綺羅君の手を がっしりつかんだ。
「なりましょう。 お友達に」


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