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くれないの影 第四章 内緒話は牛車の中で――1



 陽映の部屋に押しかけて、 せっかく愛の告白をしたものの、
 すっかり話に置いてきぼりを食らった日鞠は 憮然としていた。

 侍女の蓉は 誰にいうとも無く、 ぶつぶつとつぶやき始める。
「綺羅君……あっ、 もしかして 都で噂の……
 誰彼かまわず 見境無しに、 美姫と聞けば ちょっかい出して 騒ぎを起こし、
 嫉妬から 死霊と生霊を 山ほどこしらえているとゆう、 あの 煌めきの君様では。
 そういえば、 帝のお怒りを買って 流罪になったという噂も……」
 まる聞こえだった。

「本当ですよ。
 罪深さゆえ、 地の果てに流され、 心を塞ぐ わびしき日々」
 綺羅君は 目元に袖を当ててみせる。

 陽映は 何処から文句を付けようかと考えて、 諦めた。
 文句の付け所がありすぎて、 分からない。
 とりあえず、 死霊と生霊ってなんだ。
 しかも、 山ほどって どういうことだ。

「おいたわしいことでございます」
 日鞠が、 取ってつけたように言うが、 陽映は 「そうなのか?」としか思えない。

「このような 地の果てのド田舎で、 朽ち果てられるとは、
 おいたわしいことでございます」
「朽ち果てる…… とっても可哀想で、 いいかもしれない」
 日鞠は 、意味不明の 綺羅君の発言を無視して 続ける。

「陽映様。 婿入りなさるというのは、 まさか 鳥座の婿になるということなのですか。
 このような地の果てで、 熊とか 猿とか 雉と共に 一生を台無しになさるお覚悟なのですか。
 それは あまりにもったいのうございます」

「台無し?」伊織が、 代わりに言葉を挟む。

「そうだわ、 ご一緒に都に参りましょう。
 波止女家の力を使って、 宮廷武官になることも可能です。
 陽映様ほど 見栄えの良い殿方ならば、 都で人気者にもなれましょう。
 歌って踊れる宮廷武官も 夢ではありません」
 陽映は、 そんなヘンものに なりたくなかった。

 伊織の視線が 天井付近で泳いでいるのは、
 陽映が 歌って踊るところを想像したに違いない。
 陽映は ため息をついた。

 一瞬の静寂の中から、 廊下をほとほとと歩いてくる足音がした。
 日鞠と蓉は 襖を開けて、 隣の部屋へ飛び込み、 綺羅君は 縁の下に身を隠した。
 それぞれに事情があるらしい。

 現れたのは、 陽映たちの世話をしてくれている家人だ。
「惣右衛門様からの伝言でございます。
 この日差しでは、 昼を過ぎれば 庭も乾いてまいりましょう。
 よろしければ、 白菊様と庭の散策とか ご歓談など いかがかとのことでございます」
 嬉しそうに言うのへ、
「では 昼を過ぎたら、 お誘いに伺いましょう」
 素直に同意した。

 と、 そこへ、 バタバタと慌しい足音がもう一つやってくる。
 鳥座家の召使いのようだ。
「大変でございます。
 昨夜まで降り続いた大雨のせいで 山が崩れ、
 お国許への道が 一部通れなくなってしまいました」

「復旧の見通しは」
「今はまだ 分かりません。
 崩れた箇所が ぬかるんでおりますから、
 水が引かなくては 危なくて、 土砂を取り除くことができません。
 お急ぎでしたら、 いったん波止女の領地に出て 遠回りなさるしかございません」

 陽映は うなずいた。
 幸い、急ぎの事情は無い。
 自然のすることだ。 仕方が無い。
「道が通るまで 待つとしよう。 この地に馴染む 良い機会にもなろう」
「ははっ、 ご帰還が遅れる旨、 お国許に知らせを入れさせます」
 家人が 手配を引き受けた。


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コメント
524: by 晩冬 on 2012/09/03 at 01:24:56

朽ち果てる(笑)
それにしても人物多いのにテンポあるなあと感心してます。


相変わらず伊織の呼吸というか反応がツボ。

525:Re: 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/09/03 at 13:52:59 (コメント編集)

> それにしても人物多いのにテンポあるなあと感心してます。
ありがとうございます。本当はあまり増やしたくないんですけどね。(書きにくいから)
いつの間にやら増えちゃうんですよ。
登場人物が少ない話は、私には難しいかも。放っておくとどんどん増えます。
何とかなりませんかねえ。
水滸伝や、南総里見八犬伝を目指しているつもりはないんですけど。

623: by blackout on 2012/09/26 at 17:20:27

登場人物は、確かに増やしたくないですねw

自分は間違いなく把握できなくなるので(汗)

その分、情景描写や数少ない人物たちのセリフ・独り言をふんだんに入れまくりますw

624:Re: blackout様 by しのぶもじずり on 2012/09/26 at 17:45:17 (コメント編集)

把握できなくなるという事は無いのですが、名前の字をどれにしたのか忘れる事はあります。
だから、書きながら、名前表を作っておきます。
どういう人物かを忘れることは今のところは無いので、名前だけです。

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