FC2ブログ
RSS

くれないの影 第三章――12



「やっと 晴れ間が見えてまいりましたね」
 久しぶりに見えた 明るい空を眺めて、 伊織が嬉しそうに言った。

「あまり 見物ができなかった」
 陽映が 残念そうに答える。
「婚礼のことは、 鳥座惣右衛門様と 達磨坂様が 万事ご相談なさるでしょうから、
 その間に 白菊様と道行きと洒落込んだらいかがです」
「まだ道がぬかるんでいるから大変だろう。 遠出は諦めよう」

「そうですね。 では 屋形の中でイチャイチャしたらいいと思います」
 どうも 伊織の表現は直截すぎる。
 白菊姫に聞かれたら 怒られそうだ。
 注意しなくては と考えているところに、 部屋の外から女の声がした。

「日鞠様付の侍女 蓉(よう)と申します。
 日鞠様からお話したき儀がございます。 よろしゅうございましょうか」
 何の話だろう と訝(いぶか)ったが、 これから親戚にもなることだし 無碍(むげ)にもできない。
「どうぞ」と答えた。

 日鞠は ゆっくりと部屋に入ってくると、
 お作法の手本のような 優雅な動きで 陽映の前に膝を折った。
「お願いでございます。 お助けくださいませ」

 息を一つ吸って吐く間があって、
「はい?」 伊織が 素っ頓狂な 疑問形の合いの手を入れた。
 声にこそ出さないものの、 陽映も気分は同じだ。
 まだ 見物さえ ろくにできないでいる。
 勝手が分からない状態で、 人を助けられるのかは 大いに疑問だ。

「当方でお役に立てることでしょうか」
 陽映の視線を受けて 、日鞠は 頬に朱を散らした。
 途端に もじもじし始める。

「あ……あのう……お助けください。
 都に連れて行かれてしまいます。 貴族のおめかけにされそうです。
 お年を聞いたら 父上よりも上なのです。
 嫌なのです。 どうしても嫌なのです」

 陽映と伊織は 思わず目を見合わせた。
 昨日の堅香子の話といい、 波止女弾正が 朝廷や貴族に取り入っている という噂は聞いている。
 確かな情報もある。
 なるほど そういう相談か と納得したが、 それは波止女家の問題であった。
 まだ親戚にもなっていない陽映が 助けてはやれない。

「それは ご両親に仰るべきことではないでしょうか」
 あるいは、 力になってくれる身内に。

 弾正は 何人もの女人を囲って子沢山だと聞いている。
 腹違いの兄弟姉妹が 大勢いるはずなのだ。
 ほんの何日か前に会っただけの陽映に 相談するべきことでも、 言うべきことでもない。
 陽映は おかしなことに気づいた。 そういえば日鞠は…………。

 陽映の思考を断ち切るかのように、 侍女が大きな声をあげた。
「どうか、 お汲み取りくださいませ。
 日鞠様は、 日鞠様は………… あなた様に恋焦がれていらっしゃいます」

「ええっ?」
 伊織が先に驚いた。



戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
493: by 晩冬 on 2012/08/30 at 18:09:05

イチャイチャ(笑)
甘美な響きですね


恋のハリケーンは突然に、ってやつですね。
そして、先に驚く伊織。毎度毎度いいキャラだ(笑)

494:Re: 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/08/30 at 18:48:20 (コメント編集)

お加減はいかがですか。

陽映は、ハリケーンから無事避難できるのか。それとも、やられちゃうのか。
伊織君には、細かいところでがんばってもらいます。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア