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くれないの影 第三章――10


 堅香子(かたかこ)と日鞠(ひまり)が 連れ立ってやってきた。

「波止女弾正(はとめだんじょう)の妻、 堅香子と申します。
 これなるは 次女日鞠にございます」
「鷹巣陽映です」
「昨日は 日鞠が見苦しい姿をお目にかけたとか。 お詫びに参りました」
 陽映は、 なんだ、 そんなことかと笑った。

「これはご丁寧におそれ入る。 お気になさるほどのことではござらぬ」
「こなたにお知らせいただき、 侍女を迎えにやることができました。
 ご配慮に感謝いたします」
「なに、 それは平題箭と申す者の配慮。 当方では何をしたわけでもない」

「昨日は 見苦しいところをお見せしてしまって …………ごめんなさい」
 日鞠が 丁寧に頭を下げ、 顔を上げると ぽっと頬を染めた。

「ほんに この子はまあ、 何をあんなに泣いていたのやら。
 ちゃんと訳をお話して お詫びするのですよ」
「いや、 そのことはお気になさらず……」
 陽映は 止めた。
 訳を聴いたからといって どうなるものでもない。
 他家の姫のことだ。 どうするつもりもない。

 しかし、 日鞠は 母の言うことに 逆らう気はないようだ。
 もじもじしながらも 話し出した。
「初めて 白菊様にお会いできると思って、 ずっと楽しみにしておりましたの。
 白菊様には 女のご姉妹はいらっしゃらない と聞いておりましたので、
 姉妹のように仲良くなりたい と勝手に思っておりました 。
 …………嫌われてしまったのでしょうか。
 ろくなお返事もいただけずに、 けんもほろろに扱われてしまって、
 すっかり悲しくなってしまったのです」

 時折すくいあげるように ちらりちらりと上目遣いで陽映を見ては、
 恥ずかしそうに 俯いて頬を染める。
「………………」
 そんなことで 泣いていたのか。
 だからといって 陽映は何も言う言葉を思いつかない。
 女同士のごたごたに対処できるほどの 経験はない。
 手を出さないに限る。

 黙ったままの陽映を 気にする風もなく、 日鞠は続ける。
「白菊姉さまは ご両親を亡くされ、 弟君も 病に陥られて、
 たくさん お辛い目に遭っていらっしゃるから、 お慰めしたかったのですけど」
「ほんに 白菊は不運な娘じゃ。
 運不運というものは どうしてこうも偏るものかのう。
 白菊には 悪運が付きまとうているようじゃ。 先行きが心配でならぬ」

「分けられるものならば、 幸運を分けて差し上げたい……」
 つぶやくような一言に 陽映が思わず見ると、
 目が合った瞬間に 日鞠が頬を朱に染めた。

「上の娘は 宮中に上がっていますので、 この子も寂しいのでしょう。
 いつまでも甘えん坊で 困ったものです」
 さりげなく言うが、 どこか自慢めいて聞こえた。

 そのままずるずると、 宮廷の有力な貴族に親しくしてもらっているとか、
 宮中にも顔が利く とかを織り交ぜながら、 しばしの間 世間話をして母子は帰っていった。


「何をしに来られたのだろう」
 陽映は 戸惑いを伊織にぶつけた。
「自慢をしに来られたのでは。 それとも 牽制(けんせい)でしょうか」
「何のために」
「さあ、 さっぱり。 それより、 雨が降ってきたようでございます」

 いつのまにか 重く立ち込めた雲に覆われて、 あたりは すっかり暗くなっていた。
 薄闇に 雨の姿は見えないが、 庭の茂みや屋根を打つ ぱらぱらとした音が次第に大きくなり、
 あっという間に ざあざあとした騒音に変わった。
 地面の色が みるまに黒く染まる。

「少し早いですが 明かりを入れましょうか」
「うむ」
 明るくなった部屋で、 陽映は思いついた。

 白菊は 自分がきっと守る。
 どんな不運も 追い払ってみせる、 と言ってやればよかった。
 だが、 堅香子には、 そう言い出せない 妙な雰囲気があった気がする。

 どちらにしろ 後の祭りだ。



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コメント
485: by 晩冬 on 2012/08/28 at 19:48:29

そういった理由でしたか。

陽映さん不器用すぎ(汗)
後の祭りだけど、もうちょい考えた方がいいよ(笑)

486:Re: 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/08/28 at 20:21:55 (コメント編集)

そういう事です。

> 陽映さん不器用すぎ(汗)
絵に描いたような好青年は、とかく不器用な朴念仁系、という偏見があります。
駄目でしょうか。

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