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くれないの影 第三章――6



 陽映から 到着の挨拶をしたい と申し入れがあった。

 白菊が座る隣に、 さらに小さな几帳を立て、 『影』を忍ばせた。
 白菊が座る 左後ろの位置だ。

 土岐野や五葉の視線が左頬を掠(かす)めても不機嫌になる白菊が、
 何故か 『影』を左側に置きたがった。
 自然、 『影』は いつも赤黒い痣を見ることになる。
 真意は測りかねた。

 一族の主だった者たちも 続々と訪れるはずだ。
 姿かたちを覚えよ と命じられた。
 几帳の隙間から、 訪れる人々を眺めるのだ。


 陽映は のびのびと育った 闊達な青年だった。
 姿も凛々しく、 きりりと美しい顔立ちも 男らしかった。
 御簾越しの対面を気にする風もなく、 正面に腰を下ろす。

 陽映が部屋に入ってきたその時、 『影』は 白菊の闇に沈んでいたものを知った。
 火事場の熾(お)き火などではない。
 それは 火山の火口から溢れようとしている溶岩だった。
 陽映の声が 一言一言発せられる度に、 怪しく蠢く。

「二年も経ったのですね。 早いものです。
 先代様が 突然亡くなられた折のご心痛から、
 紅王丸君(ぎみ)が お心を乱されて病に臥せられた と聞き及んでおります。
 重ね重ねのご不幸、 お察し致します」

 そこまで言うと、 御簾に向かって 穏やかな視線を投げ、
 思い切ったように続けた。
「よく頑張られました。
 この先は 私がお力になります。 なんとしても お守りします」
 高らかに言い放った力強い言葉に、
 土岐野と案内してきた家臣が、 ほっと目を潤ませる。

 しかし、 陽映の声をきっかけにして、
 白菊の中に ついに狂おしくほとばしり出たものがあった。
 隣に潜む『影』にも それは見えた。

 いったい何の罰だろう。
 苦しい。 苦しくてたまらない。
 真っ赤に熱い塊が 溶け出し、 炎を飛び散らせて 荒れ狂う。
 何をどうしたら良いのかも 分からない。
 意思そのものが溶け崩れて、 もはや見当たらない。
 見当たらないはずだ。 燃える溶岩――灼熱の塊に飲み込まれて、 一体と化している。
 身も心も 己の自由にはならなかった。

 御簾の内からは、 ただ一言。

「…………よしなに」
 搾り出した言葉が、 苦しい吐息となって 零れ落ちた。

 陽映は、 それでも にっこりと微笑んだ。



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コメント
478: by ラ コンシェル on 2012/08/26 at 21:58:56

こんばんは、ご無沙汰してます。

ちょくちょくブログ拝見していましたが、更新スピードすごいですねぇ。

これだけの文章を毎日のように書いておられるバイタリティのすごさには感服してます。

私の小説はのろまな亀状態ですが、これからも更新していきますので、時々見に来てくださいね。

取り急ぎご挨拶と生存報告まで。

480:Re: ラコンシェル様 by しのぶもじずり on 2012/08/26 at 22:47:50 (コメント編集)

こんばんは

いつまでもつか 分かったもんじゃありません。
今は、先に書き散らしたものを 手直ししつつUPしていますが、
新しいのが 絶賛低迷中です。
短編が進まない。長編の最終章が見えてこない。雑記もなんだかパンチが足りない。
早く涼しくなって欲しいです。

ブログめぐりをしていると、面白くてつい読みふけっちゃうのも原因の一つです。
是非寄らせももらいますとも。

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