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くれないの影 第三章――5



 もはや 当たり前のように『影』が座に着くと、
 庭先に 家人が女と少年を伴って現れた。

「新たに入れた 飯炊き女と下男、 お萩と 千兵衛 にございます」
 女と少年が 地に手を着いて、 深々と頭を下げた。
 御簾越しに見ても 遠くて顔などよく分からない。
 どうせ 下男下女など、 どれもたいした違いはない。
 見たことがあるような気がするのは、 単なる気のせいだ。

 鹿の子は、 自分の発した言葉によって、
 以前の雇い人たちが屋敷を追い出されたことなど、
 思い出しもしなかった。


 そんな日々の合間を縫って、
 土岐野に 鳥座家のおおよその歴史と法要の段取りを教えられた。
 挨拶を交わさねばならなくなるだろう人々のことも 説明される。

 まずは 鷹巣義具の次男 陽映。 許婚である。
 幼い頃から 長男の義映に嫁ぐ約束になっていたが、
 鳥座の先代が突然に身罷り、 紅王丸が気の病に伏せたため、
 次男の陽映が 婿入りすることになった。
 二年半ほど前、 鷹巣の屋敷で会っているとのこと。

(紅王丸?  ああ、 弟だ。 そういえば居た。
 気の病なら、 居ても居なくても同じだ。
 …………あれっ?  気の病……そうだろうか。 何かおかしい。
 …………たぶん 気のせいだ)

 次に、 叔母の堅香子。
 赤子の頃は よく知っているはずだが、
 波止女家に嫁いでからは 音沙汰が無くなり、 葬儀と一周忌に突然のように現れた。
 娘の日鞠は 初対面。

 その他、 分家の何某。 郎党の何某。
 何処のだれそれ、 と詰め込まれた。

 土岐野は 説明しながら、 言わずもがなのことを 白菊相手に教えているようで 困った。
 偽者だと見破られる心配だけは なさそうだ。



       *  *  *



 次嶺経の夏は 短い。
 秋口に入った途端、 風が変わる。
 北山の頂上近くから、 鮮やかだった草木の色のくすみが降りてくる。
 寒い季節の支度を始めていた。

 先代領主の三回忌法要の為、 隣国から山を越えて 鷹巣陽映が訪れた。



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コメント
471: by 十二月一日 晩冬 on 2012/08/23 at 18:21:48

季節の移り変わりですかー
はやく秋の風が欲しい……
それにしても土岐野は苦労が絶えないですねww

472:Re: 十二月一日 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/08/23 at 19:29:27 (コメント編集)

暦の上では秋なんですよー。
現実も早く涼しくなって欲しいものです。
日が短くなりましたし、時折涼しい風も吹いてきたりはするのですけどねえ。
物語で、少し先取りしてみました。

土岐野の苦労はいつか報われるのでしょうか。←他人事。

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