FC2ブログ
RSS

くれないの影 第三章――3



 助かった と思ったのもつかの間、 惣右衛門が 面倒な話を始めた。

「鷹巣様から 文が届きました。
 先代様の三回忌法要に、 陽映(はるあきら)様が御越しになられる由。
 良い折でございますので、 お屋形様とのご婚儀の話をすすめたいと存じます。
 よろしゅうございますね」

 鹿の子は どう返事をしていいのか見当がつかない。
 また 土岐野が助けに出た。
「思わぬ闖入者で 屋敷内が混乱しています。
 そのことについては 後ほどゆっくりと」
「かしこまった。
 波止女家からは 堅香子(かたかこ)様が 姫君を伴って おいでになるそうでございます。
 では、 後ほど 改めて参上つかまつる」

 婚儀と聞こえた。
 では 白菊姫は 婿取りをするのだ。
 そうなれば、 表立っての事は 婿殿に任せられる。
 影も必要なくなるだろう と鹿の子は少しほっとした。

 紅王丸も 姉の心配をしなくてもよくなる。
 逃げる気になるかもしれない。
 そうだ、 一緒に逃げよう。

 自分は 軽業師に戻る。
 寿々芽は かしこいから、 芸を仕込んで 鴉使いでもすれば あの美貌だ、 きっと受ける。
 二人で 旅芸人になるのだ。
 考えたら 楽しくなってきた。

 門の辺りから 騒がしい音が聞こえる。
 綺羅君が お騒がせをしているのかもしれないが、 もうどうでもいい。
 気ままで自由な暮らしに 戻るんだ。



       *  *  *


 牛車の音が 遠ざかる。
 鹿の子を下がらせて、 やっと静けさを取り戻した部屋には、
 白菊と土岐野の二人が残った。

「お屋形様、 ご婚儀の件は いかがなさいますか」
「惣右衛門に まかせよ」
 土岐野は 一度目を閉じて、 ゆっくりうなずいた。
「白粉(おしろい)を重ね、 綿帽子をすっぽりと被れば、
 お気になさるほどのことにはなりませぬ。
 お任せくださいませ」

「影が居る」
 当たり前のように言う白菊の言葉に、 土岐野は 目を見開いた。

「まさか、 ご婚儀にまで影を使うおつもりですか」
「思いのほか 良う出来た影じゃ。 使わぬ手はあるまい」
「しかし、 それでは、 あまりにも陽映様に失礼では……」

「土岐野、 陽映様の部屋は 父上の部屋だったところにいたせ。
 ここからは遠い。 お召しの時には 影を向かわせるとしよう」
「姫様、 ま、 まさか 陽映様にも 隠し通すおつもりですか」
「側室(そばめ)をあてがったと思えばよい」

「………………」
 土岐野は 言いたいことが山ほどあるような気がしたが、 どれも言葉にならなかった。
 どう言えば良いのかも 分からなかった。

 一昨年 父親を亡くし、 母親は 幼い頃にすでに亡くしている。
 白菊姫を止められるものは 誰もいない。

 ――本当に、 それで良いのですか――  その言葉は 口にできなかった。



戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
465: by lime on 2012/08/22 at 08:01:40 (コメント編集)

帝の弟君の登場が、コミカルで楽しいですね。
なにか騒動を起こしてくれるでしょうか。

鹿の子はすっかり紅王丸が気に入ってしまいましたね。
なんか、成就してほしい。二人で旅芸人かあ。いいですね。
でも、紅王丸、なにかややこしい事情がありそうで、難しそう。

そして、こんどは婚儀の話。
白菊姫のごたごたに、鹿の子、まだ巻き込まれそうですね。

466:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/08/22 at 10:07:54 (コメント編集)

綺羅君は、今後なにかとやらかす予定です。

ご推察通り、鹿の子のほうは、巻き込まれ型ですね。どんどん巻き込まれます。

まだ気温は高いですが、時折吹いてくる風が、秋風っぽいです。
夏の疲れを引きずらないようにして、素敵な秋を迎えたいですね。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア