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くれないの影 第三章――2



 帝の弟宮――綺羅君は、 朗々とした声に歌を載せながら、
 ずうずうしく 廊下から上がりこんできた。

「心あてにー、 折らばや折らむー 初霜のー、 おきまどわせるー 白菊の花―」
(当て推量で折ったなら、 折り取ることができるだろうか。
  一面に白く降りた初霜にまぎれて、 何処に咲いているやら 見分けることもできぬ 白菊の花を)

 盗作だ。
 しかも 季節は 夏の昼下がり。
 歌なんて ちんぷんかんぷん、 という鹿の子でさえ、 絶対に変だと気付くくらい いいかげんだ。
 いくら山奥でも、 この季節に 霜が降りるはずが無い。

「麗しき姫君の噂に、 身を焦がして迷い出ました。 花のかんばせを現したまえ」
 止めようとした土岐野を ひらりとかわし、 こともなげに 御簾に手をかける。

 顔を覗かせた綺羅君を、 鹿の子は ぎろりと睨んだ。
 背中から 奥の部屋にいる白菊の怒りも伝わってくるような気がする。
 鹿の子が居て 正解だった。


「これは これは 見事な姫君。 艶なるひと時をすごしましょうぞ」
 睨んでも 怯(ひる)まないところが 腹立たしい。
「おなごの身を守る御簾を剥(は)ぐとは、 悪戯が過ぎましょう。 お慎みください」

「巡り逢うたは前世の定め。 ささ、 恥ずかしがらずとも…… 痛っ」
 鹿の子の扇子が、 ピシリと綺羅君の額を打った。

 空気が凍りついた。

 流人の身とはいえ 帝の弟宮、 その額を打つなど 鹿の子自身も驚いていた。
 自分の所業とは信じられない。

 ところが、 綺羅君は 赤くなった額に手をあて、 ぽっと頬を染めたのだ。
「なんと目新しい刺激!  カ・ イ・ カ・ ン」
 よほど痛かったのか、 目を潤ませて 鹿の子に熱い視線を寄せる。

 綺羅君は 被虐趣味に目覚めてしまったらしい。
 さすがは 遊び上手。
 土岐野が がっくりと肩を落とした。
 うつむいた髭の従者の肩が 小刻みに上下している。

 鹿の子にとっては、 ずっこけたり 笑ったり している場合ではない。
 体よく追い払うのが 今日の役目だ。
 白菊の冷たい視線を 三割り増しで真似て、 一瞥(いちべつ)する。

「わらわは この地の領主。
 帝のご不興を賜(たまわ)った流人と よしみを通じるわけにはいきませぬ。
 お帰りください」

「その冷ややかな眼差し、 ぞくぞくする。
 忍んできた甲斐があったというもの」
 屋敷を騒がせ、 目立ちまくる従者まで連れて、
 何処が忍んでいるのだ と突っ込みたいところである。

 鹿の子は、 綺羅君に 回し蹴りと跳び蹴りをするところを 想像してしまった。
 喜んでしまいそうなので 諦める。

 どうしたら お気楽ではた迷惑なしろものを 追い出せるのだろうか と大いに悩んでいるところに、
 惣右衛門が来た。
「お屋形様、 鷹巣…… うわああ」
 部屋の様子に驚いて 叫び声をあげた。

「無粋な……」
 綺羅君が、 美しい眉をひそめ、 鹿の子に向かって 名残(なごり)惜しそうに微笑む。
「寂しいでしょうが 今日はお別れします。
 恋に障害はつき物。 かえって燃え上がるというものです。
 待っていて下さい」
 ひらりと身をかわして 立ち去った。

 あわてたように 髭の従者も よたよたと後を追う。
 松の枝に いつの間にか とまって見物していた寿々芽が、
 一声 アホーと鳴いた。

「拙者は 障害でござるか。 いやはや。 それはさておき……」
 助かった と思ったのもつかの間、 惣右衛門が 面倒な話を始めた。



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461:管理人のみ閲覧できます by on 2012/08/20 at 18:25:18

このコメントは管理人のみ閲覧できます

462:Re: 鍵コメP様 by しのぶもじずり on 2012/08/20 at 19:24:07 (コメント編集)

さあ、どうなんでしょうか。作者の私にもイマイチ分かりにくいのです。
そういう路線も考えていたのですが……。

619: by blackout on 2012/09/25 at 00:54:28

だいぶ間が開いた気がしますが(汗)

続きを読ませていただきますw

しかし…

綺羅君は何をされてもいい方に捉えるようですねw

620:Re: blackout様 by しのぶもじずり on 2012/09/25 at 11:43:27 (コメント編集)

いらっしゃいませ

> 綺羅君は何をされてもいい方に捉えるようですねw
お遊びが過ぎて、ヘンタイが入っているだけですよ。

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