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くれないの影 第三章 煌めきの君、被虐の目覚め――1

            (きらめきの きみ、 ひぎゃくの めざめ)


「我が運命(さだめ)の乙女子(おとめめご)よ、 やっと会えたね」

 目鼻立ちの美しさだけなら 紅王丸が凌(しの)ぐだろう。
 しかし その身にまとった艶(あで)やかな華やかさは 鹿の子の目を釘付けにした。
 年の頃は 二十二、三。
 自信に満ちた瞳と あか抜けた様子には、 匂い立つような 男の色香が立ち昇っている。

 鹿の子には、 なんとなく心当たりがあったが、 一応 訊いてみた。
「どちら様?」
「恋の狩人」

「うぐっ」
 訊くんじゃなかった と後悔した。
 駄目だ。 これは手に余る。
「獲物は 他をあたってください」
 鹿の子は 両手で がっしと裾をつかむと、 一目散に逃げ出した。



 三日後のことだった。 屋敷の表が騒がしい。
 鹿の子の部屋に 五葉が来た。
「急いで お屋形様のお部屋に 行ってください」
「何があったの」
「念のためです」
 要領を得ないが、 おとなしく指示に従った。

「お役目です。 御簾の内に」
 土岐野が待ち構えて 急き立てた。
「お役目って、 何をすればいいの」
「三日前に 国司様と帝の弟宮が、 山歩きのお帰りに この屋敷に立ち寄られました」
「三日前……」
 では やはりアレが 帝の弟君だったのだ。
 出会ったのがまずかったのか、 それとも 逃げ出したのがまずかったのか、
 また叱られるのかと思って 鹿の子はうんざりした。

「弟宮が、 今日になって また牛車をしたて、 門前にお越しになられました。
 お断りしていますが、 あの方は……
 押しが強い というわけではないのですが、 つかみ所が無い と言いましょうか、
 ひらりひらりといつの間にか 好き勝手をなさるのが お上手なのです。
 三日前も 庭を勝手にうろつかれました。
 万が一にも 入ってこられたら、 体(てい)よく追い払ってください。
 弟宮が お屋形様を目にすることが無いように。
 分かりましたね」

 そういうことか と納得した。
 さっさと帰って欲しい。
『また会えましたね』 などと言い出したら 困る。
 もしも そんなことになったら、とぼけるしかない。

 一同の杞憂を知ってか知らずか、
 はたまた 如何に家人の防御を突破したものやら、
 庭に 綺羅君が姿を現した。
 後ろに 人相も分からぬほど髭もじゃの従者が、 太めの体を揺らせて よたよたと従っている。
 土岐野の舌打ちが 小さく聞こえた。



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コメント
459:こんにちは by じゅべ です on 2012/08/20 at 12:12:49

しのぶ 様
こんにちは
第3部始まりましたね。
毎日更新できるのは、素晴らしいです。
どの辺まで先行してるのでしょうか。
自分の場合は、出稿する前日までうんうんと唸っております(笑)。
じゅべ

460:Re: じゅべ様 by しのぶもじずり on 2012/08/20 at 12:29:27 (コメント編集)

こんにちは
企業秘密です。
うんうんと唸っているのは同じです。
当日も唸っていたりします。思いっきりが悪いんです。
さあて、いつまで続けられるのでしょうか。

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