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くれないの影 第二章――12



 目配せだけで 見張り番に扉を開けさせ、 土蔵に入る。

 薄闇に目が慣れるのを待って 立ち止まっていると、 窓に 寿々芽が来て止まった。
 奥で 紅王丸が立ち上がる気配がする。

 鹿の子は ゆったりと進んでいった。
 それにつれて 紅王丸も、 一歩、 また一歩 と近づいてゆく。
 格子の前で 鹿の子は正面からじっと見つめ、
 瞬きもせずに 紅王丸が口を開くのを待った。

「ああ、 本当に 姉上……に……似ている」
 鹿の子は がっかりした。
 やはり 弟にはわかってしまうのだろうか。

「まだ駄目なのね。 どこが違うのかなあ」
「姉上は……見てはくれない。
 姉上の眼差しが通り過ぎるようになったのは、 いつの頃からだろう」
「えっ」
 失敗した。
 しかし、 こんなにきれいな人を 見つめずにはいられない。
 できれば、 ずうっと見ていたい。

「……嬉しかった」
 紅王丸が ほんの少し微笑んだ。
 鹿の子も 嬉しかった。
 それは ちゃんとした笑顔に見えたから、 とても嬉しかった。
 鹿の子の顔は、 久しぶりに 笑顔でいっぱいになった。

 もっと喜んでもらうには どうすればいいのだろう。
 そうだ!  もちろん こんな狭い所から出してあげるのが 良いに決まっている。
 見張り番は、 鹿の子を白菊だと思っている。
 紅王丸を解放しても 止めないはずだ。
「あのね……」

「もう関わるな。 来るのも やめたほうが良い。 出る気はない」
 くるくると変わる鹿の子の表情は 読みやすい。
 紅王丸は 鹿の子が言おうとしたことを遮った。
「でも……」
「行きなさい」

 そんなに簡単な事ではないのだろう。
 幽閉の理由を 先に聞き出すべきだった。
 鹿の子は うなだれてきびすを返した。
 出口の寸前で、 後ろから 小さな声が聞こえた。

「ありがとう。 私を見てくれて、 ありがとう」


 外は まぶしいくらいに 明るかった。
 鹿の子は、 考えながら 部屋に戻ろうとした。
 作戦変更だ。
 まずは どうなっているのか 調べなくてはならない。 複雑な事情があるのだろう。
 それからでなくては 先に進めない。
 しかし、 白菊のふりをして、 どうして紅王丸が幽閉されているのかを訊くことはできない。
 あまりにも不自然だ。 白菊が 知らないはずは無いからだ。
 さて、 どうしたもんだろう。

「よし!  頑張る」
 この屋敷で唯一、 軽業のお客になった人だ。
 広い場所で 思いっきり披露して喜んでもらうのだ。


 庭を突っ切ろうとして、 妙なものが目に入った。
 土塀に沿って、 庭木の陰を選ぶように やってくる人物がいる。

 庭木は 豊かな緑をあふれんばかりに茂らせていて、 隠れているつもりなのかもしれないが、
 色鮮やかな狩衣(かりぎぬ)が 目立ちまくって、 ちっとも隠れていることになっていない。
 怪しいが、 泥棒にしては間抜けすぎる。

 あきれてみていると、 向こうも 鹿の子に気がついた。
 日差しの中に姿を現し、 にっこりと微笑んだ。

「我が運命(さだめ)の乙女子(おとめご)よ、 やっと会えたね」

 って 誰!


                        第三章につづく


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コメント
445: by ポール・ブリッツ on 2012/08/17 at 22:46:03

いきなり軟派なやつが?

重苦しい雰囲気の中の一服の清涼剤になるのか?

先がどうなるかさっぱりわからないです。続きが読みたいであります。

448:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/08/17 at 23:09:20 (コメント編集)

> いきなり軟派なやつが?
問題児が登場しました。

> 先がどうなるかさっぱりわからないです。続きが読みたいであります。
まだ二章ですから。これからいろいろあるのですよ。

454: by lime on 2012/08/19 at 11:36:04 (コメント編集)

鹿の子が、紅王丸に惹かれていくのが、とても感じられますね。これはきっと恋物語でもあるのでしょう。
でも、鹿の子、危ないことをしなければいいのですが。

白菊に、本当に生き写しになったときに、何か謎が解けるのかもしれませんね。楽しみです。

456:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2012/08/19 at 12:49:24 (コメント編集)

ご心配をおかけします。
新たな登場人物も現れて、第三章からは展開が変わっていくと思います。
えーと、そのはずです。

謎は、おいおいに。

497: by blackout on 2012/08/30 at 21:32:36

美しい動きとは、ムダのない動きでもあるかもしれませんね

白菊の動きを見て、そんなことを思ったりしました

鹿の子は、白菊の外見と動作を瓜二つに真似ることは出来ても、心の闇は不可能

紅王丸はそれを察したのでしょう

心に闇を抱えた白菊、ある意味非常に物事を捉える鹿の子

このコントラスト、なかなか面白いですね

500:Re: blackout様 by しのぶもじずり on 2012/08/30 at 22:44:51 (コメント編集)

外見はそっくりな二人なのに、中身は正反対。

> このコントラスト、なかなか面白いですね
そう感じて頂けたなら、うれしいです。

2000: by レバニラ on 2014/03/03 at 23:27:31 (コメント編集)

どうも、こんばんはです。

この「くれないの影」は以前から少しずつ読ませて頂いておりましたが、
第二章の終わりまで拝見いたしましたので、この辺りでコメント差し上げたいと思います。

しのぶさんの小説は「蜻蛉の願いはキンキラキン」から読ませて頂きましたが、この「くれないの影」も主人公の女の子が元気が良く快活で、読んでて爽やかな気分になりますね(^^)

でも最初は鹿の子ちゃんの事を、蜻蛉ちゃんみたいな“鼻垂れ小娘に毛が生えた”程度の子かと思ってましたが、読み進めて行くうちに意外と綺麗な女の子だったみたいで驚きました。

得意技が物まねというか、形態模写というのも面白いですね、
自分も、昔は曾婆ちゃんの物真似が得意で、よくこの声で母ちゃんを呼んだりする悪戯した物です。

2001:Re: レバニラ様 by しのぶもじずり on 2014/03/04 at 11:27:54 (コメント編集)

コメントをありがとうございます。

鹿の子のものまねは神業級です。何しろとりついちゃうわけですから、特殊能力なのです。
この先、もっと蜻蛉とは違ってきますよ。別人28号です。

お母さんにいたずらするとは、いけない子だったのですね。
でも、面白そう。
物まねが得意な子は吸収力があるということで、許してもらいましょう。

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