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くれないの影 第二章――11



 皆が退室して 二人になった。

「御簾を」
 土岐野は 声に従って、 御簾を下ろし、 愕然とした。
 今の声は どちらの声だったのだろうか。 判然としない。
 不安に駆られて、 白菊にしか見えない娘を見た。

 こっそりと影を用意したものの、 こんな風に堂々と人前に出すとは思っていなかった。
 ごまかし程度に使うだけだ と思っていた。
 いずれ 惣右衛門をはじめ 一族の者には 打ち明けることになるだろうと。

 似すぎている。
 身内や 自分でさえも見分けのつかない影。
 これからどうなるのだろう と思うと、 底知れぬ不安がよぎった。

 奥から もう一つの声がする。
「影、 わらわが呼ぶまで、 部屋に下がっているがよい。 目障りじゃ」

 鹿の子は 立ち上がった。
 これで 期限の十日を乗り切った。
 得意技を使いすぎて、 思いのほか疲れていた。
 聞きたいことがあったが、 答えてもらえないのは分かりきっていた。


 鹿の子の世話を命じられて、 五葉はほっとしていた。
 白菊の傍は 土岐野と一緒でさえ緊張する。
 土岐野が 鹿の子の訓練をしていた間は、五葉一人で 身も細る思いを強いられた。
 実際は 鬱憤を晴らす為に食べ過ぎて、 太ってしまっていたが……。

 鹿の子ならば、 どんなに似ていたところで、 たかが影。
 軽業師の小娘にすぎない。
 密命とはいえ、 気が楽だ。
 与えられた部屋に 鹿の子が戻ったからには、 今後は 気を抜ける機会も増えるだろう。
「疲れたでしょう。 ゆっくり休みなさい」
 気の緩みから 気安く声をかけた五葉は、 振り向いた視線に背筋を凍らせた。

 ほんの十日の間に、 この娘は しぐささえも白雪そっくりになった。
 なんという人間を作り出してしまったのだろう。
 五葉は 恐ろしいものを見るように、 改めて 鹿の子に見入った。

「うん、 ものすご~く疲れた」
 ぼんやりとへたり込んでいる鹿の子を見ても、五葉の気が休まることは無かった。

 五葉の見通しは 全く甘かった。
 白菊の用を言いつけられるのは 以前と変わらず、 鹿の子の世話が増えただけだった。



 その日、 白菊の用事で五葉の姿が見えなくなった時、 『カノコー』と声が聞こえた。
 庭を見ると 寿々芽が来ていた。
 あれから 何度か土蔵に行ったが、 その度に 寿々芽も窓からやってくる。
 いつの間にか 紅王丸を真似て 名を呼ぶようになっていた。

 鹿の子は ほくそえんで 庭に降り立った。
 土岐野も五葉も ぎょっとした顔で見ることがある。
 どの程度の知り合いかは分からないが、 先日の客も気づかなかった。
 きっと 相当似ているはずだ。

 今度こそ 紅王丸を喜ばせることが出来そうな気がする。
 うきうきと土蔵に向かった。


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