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くれないの影 第二章――10



 惣右衛門は 知らん顔を決め込んでいた。
 隣国の領主 鷹巣(たかのす)義具(よしとも)の次男、
 陽映(はるあきら)との縁談を 実行に移さなくてはならない時期に来ている。
 いや 遅きに失したともいえる。
 ことは 鳥座家の存亡にかかわっているのだ。
 万が一 白菊姫に婿取りが出来ぬなら、
 一族の者たちに図って、 分家から 次の当主を選ばなければならなかった。

 山を下った南に 波止女(はとめ)という領主がいる。
 強く請われて、 白菊の叔母が嫁いでいた。
 この波止女家の当主が、 何時の間にやら野望を見せ始めた。
 朝廷に伝(つて)を作るにしても、 武力を増強するにしても 金がかかる。
 鳥座の領内には 金山があった。
 隙あらば 外戚を理由に 図々しく口を挟もうとしており、
 世継ぎ問題に手間取れば、 叔母の子を領主にしろ と言い出しかねなかった。


「女の身ゆえ、 出歩かぬまでのこと。 他意はありません。
 土岐野、 御簾を上げよ」
 声に反応して 土岐野が 内心ぎょっとしながらも、
 静かに進み出て 御簾を巻き上げた。

 ためらいをそのままに、 のろのろと御簾が上げられると、
 そこに 端然として揺るがぬ 姫領主が姿を現した。

 土岐野でさえも 一瞬 白菊かと疑ったほどだったが、
 火傷の後が無いからには、 もちろん鹿の子だ。
 淡雪が膝にいない。
「国司様には、 よしなに」

 冷ややかに告げる人を、 土岐野以外の誰もが 白菊と思い、 疑いもしなかった。
 鹿の子は 旅の徒然(つれづれ)に読んだ 評判の草紙本(そうしぼん)で、
 悪役のお姫様の物言いは 熟知している自信が ちょっとだけあった。
 こんなところで役に立つとは思っていなかったが、 思ったよりうまくいった とほっとした。
 やれば出来る。 役者もいけるかも。

 惣右衛門も ひそかに安堵の息をついた。
 白菊姫は 何の問題も無さそうだ。 心なしか 以前よりも健康そうにさえ見える。
 鷹巣陽映との婚礼の準備にかからねば と心積もりを固めた。

 鷹巣家の領地は 豊かで安定している。
 領主の義具は 先代の盟友でもあり、 謹厳実直な人柄でも知られた人物だ。
 いろいろあったが、 これで鳥座も落ち着く。

 その場の各々が、 それぞれの理由でほっと一安心した その時、
 次嶺経介が ふと思い出したという顔で 付け加えた。
「そうそう、 紅王丸さんは 相変わらずやろか」

 鹿の子は 無言を通した。
 知らないことになっている。 誰かが なんとかするだろう。
 案の定 土岐野が動いた。

「差し出がましゅうございますが、 どうかそのことは……。
 お屋形様も お心を痛めておいででございますゆえ」
 次嶺経介は 一つ頷いて、 引き上げていった。

 結局、 鹿の子にとって 紅王丸の幽閉は 謎のまま残った。


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コメント
434:入ってきます by じゅべ です on 2012/08/16 at 14:17:26

登場人物の名前がとってもおさまりが良く入ってきますね。
鹿の子にしろ周囲の登場人物の名前にある種の調和があって、独自の世界観を持ってるように思います。
じゅべ

436:Re: 入ってきます by しのぶもじずり on 2012/08/16 at 15:50:30 (コメント編集)

じゅべ様こんにちは

登場人物の名前を考えるのもちょっと楽しくて、趣味に走りすぎたかなと思っていたので、
そう言って頂けると安心します。
ファンタジーなので、実際に在り過ぎる名前は使いにくいのですよ(^^ゞ

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