FC2ブログ
RSS

くれないの影 第二章――9



 十日目に 訪れる者があった。
 国司の使いだという。
 惣右衛門が出て、 国司の館に赴(おもむ)く旨を伝えても、 それには及ばぬという。
 領主に直接頼みを伝えるよう 言いつけられてきたと譲らない。

 国司に任じられても、 役名ばかりで 都に留まることの多い中、
 次嶺経(つぎねふ)の国司は 受領(ずりょう)に自ら赴任してきた変わり者だ。
 館は郷の南東に在り、 領主屋敷とは離れた場所に位置している。
 政の用向きに関しては 惣右衛門が出向いてきた。
 そのことへの不満でも言いに来たか。
 やむなく 白菊の部屋に通した。

「これはこれは、 介(すけ)様 御自らのお出ましとは。 何事でございましょうか。
 ただいま すぐに お席をお直しいたします」
 迎えた鳥座(とぐら)家は 驚いた。

「いや、 そのままで けっこう。 今回は 政のことではございません。
 次嶺経守(つぎねふのかみ)様の ごく個人的なお願いに上がりました」
 やってきたのは 介だった。 守(かみ)の次官に当たる。
 国司が都に居座れば、 実質的に政務を仕切る立場になるが、
 次嶺経守自身が受領に赴任している為、 文字通り 次官の任についている。
 御簾の前で 鷹揚に話を切り出した。
 白菊が領主を継いだ時、 挨拶に行って 一度会った事があった。

「この地に 帝の弟宮が 罪に問われて流されていらっしゃるのは 聞き及んでおりましょう。
 次嶺経守様が、 宮様をお慰めしようと思い立たれて、 北山の散策に誘われましてございます。
 しかしながら、 山を下りられてから館までは しばらくございます。
 お帰りの前に、 この屋敷にて一休みさせて欲しい とのお申し出でございます」

 帝の弟宮とは 『煌(きら)めきの君』とか 『綺羅君(きらぎみ)』とか呼ばれている人のことだ。
 華やかな恋の噂が絶えず、 都にあっても ひときわ雅(みやび)な方だと評判である。
 帝の后(きさき)に ちょっかいを出したのがばれて、 一年ばかり前に 流罪になっていた。
 お聞き及びどころか、 朝廷の意を受けて 住まいを用意したのは、 ほかならぬ鳥座家だ。
 ひなびた田舎では、さぞや退屈しているだろうが、 罪人でもある。
 次嶺経守も物好きな人だ。

「承(うけたまわ)りました。 日を知らせてください。
 それで?」
 御簾の中から 白菊の声が答える。
 それだけの用件なら 惣右衛門でこと足りる。 いつものように、 呼びつければ済む話だ。
 わざわざ出向いてきたのには、 他に理由があるはずだった。

「姫さんが お怪我でお出歩きになられぬ と聞き及んでおりますので、
 お加減を伺って来い との仰せでございます」
「お気を使わせてしまったようで 心苦しく思います。 大事ございません。
 国司様に よろしくお伝えください」

「よろしゅうに伝えたいのは山々なんですが、 御簾の内からとは 他人行儀な。
 可愛らしいお顔を見せてもらえましたら、 次嶺経守様に きっちりお伝えしますんですが……、
 無事なお姿を拝見できませんでしょうか。
 常の姫さんと違うて 領主様なんやし」

 だんだんと口調も砕けて、
 さも 知り合いのおじさんが心配していますよ といわんばかりの調子になる。

 土岐野が、 止めて欲しい と同席している惣右衛門の顔を見た。
 だが、 惣右衛門は 知らん顔を決め込んでいた。
 惣右衛門でさえ 半年も顔を見ていない。 さすがに 気になっていた。


戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア