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くれないの影 第二章――7



 その沈黙は 長かったのか、 短かったのか。
 研ぎ澄まされた刃(やいば)のような 時の流れがあり、 答えが 出た。

「よかろう」

「姫様!」
 土岐野が 悲鳴のような声をあげた。『お屋形様』ではなくなっている。

「土岐野、 御簾を上げよ」
 土岐野を無視して 暗い声が響いた。
 なおも躊躇いを見せていた土岐野が、 鹿の子を睨みつけて 立ち上がった。

 御簾を ゆっくりと巻き上げてゆく。
 隅に転がった脇息が見え、 白菊の姿が 徐々に現われた。
 鹿の子は 言葉を失った。

 美しい着物を纏って 端然と座る白菊姫の 左半分の顔が 赤黒く爛(ただ)れていた。
 袖口から覗く左手も 同じ色をしている。
 火傷の跡だ。
 それよりも驚いたのは、 きれいな右半分の顔が まさに 鹿の子と生き写しで、
 鏡を見ているようだったことだ。

 初めての日に 『気味が悪い』と言った白菊姫の言葉が、 今になって よく分かる。
 あまりに似ていて 気味が悪かった。

 白菊は 唇の端を上げて不気味な笑みをつくると、 挑むように鹿の子を見据えた。
「しばらくの間 御簾の内に侍(はべ)って、 よく見ているがよい。
 そうじゃな、 十日やろう。
 十日のうちに 見事わらわの影になって見せよ」

 土岐野が あわてている。
「と、 十日間ですか。 毎日でしょうか。 三日おきでは……」
「命令じゃ。 端に几帳を立てて控えておれば、 下座から見えまい。
 起きてから寝るまで、 存分に 見定めるが良い。
 土岐野はもうよい。 以前の役目に戻れ。 影の世話は 五葉に任せよ」

 土岐野が 心配そうに鹿の子を見やったが、 黙って平伏した。


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