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くれないの影 第二章――6



 得意技を駆使して、 なんとか しとやかな 立ち居振る舞いを身に着けた鹿の子は、
 土岐野に導かれて 白菊の部屋に連れて行かれた。

 人払いがしてあったのか 誰もいない。
 土岐野が平伏したので 鹿の子も真似た。

「動いて見せよ」
 御簾の内から 不機嫌そうな声が聞こえた。
 土岐野に促されて、 部屋の中を歩く。

 と、 突然 物が投げ捨てられたような乱暴な音がして、
 御簾の裾から 白猫が飛び出し、
 二人とも 思わず身をすくめた。
 鹿の子は 尻に帆掛けて逃げ出したかったが、 かろうじて堪えた。
 飛び出してきた白猫は、 隠れるように 隅に丸くうずくまる。

「どういうつもりだ。 土岐野の影を作れ と言った覚えはないぞ」
 怒りに満ちた声が降ってきた。

 土岐野は 戸惑っているが、
 鹿の子は 腹を据えて、 御簾の前に 進んで座った。

 土岐野だけが 気づいていなかった。
 自分が動く姿を見ることは 出来ない。
 鹿の子の動きは、 細かなところまで 土岐野そのままだ。
 後姿が 土岐野に間違われることはあっても、 到底 白菊には見えないはずだった。
 皮肉なことに、 土岐野にそっくりであればあるほど、
 白菊の影 としての役割からは遠ざかる。

「お屋形様に 申し上げます」
「申せ」
「あたしは お屋形様の影になればいいんですよね。
 でも、 一度も お姿を見たことが無いんです。
 真似できるのは 目の前の 土岐野様だけ。
 見たこともない人を真似るのは 無理だと思います」

「わらわを目にすれば、 真似られると申すのだな」
 土岐野が 息を呑む。
 自分の失敗に気づいたが、 鹿の子の言ったことに 困惑していた。

 静寂と緊張に 空気が固まった。
 鹿の子は ここが正念場だと思った。
 屋敷には 大勢の人の気配があるが、 会ったのは ほんの数人。
 土岐野と五葉の他は、 鹿の子を無理やり連れてきた男たちだけだ。
 その誰もが 白菊姫を畏怖しているように感じる。
 恐ろしいが、 影になるなら 避けては通れない。

 自分でも驚いていた。 何故 こうまで やる気になったのだろう。
 紅王丸の面影が 浮かぶ。
 あれから 何度かこっそりと土蔵に行ってみたが、 いつも 悲しそうな表情は消えなかった。

『姉上の役に立ちたい』 とあの人は 言ったのだ。
 その為に、 無理と承知で 毎日 女になることさえ願っている。
 白菊姫が 大好きなのだろう。
 そっくりになって会いに行ったら、 少しは 明るい顔を見せてくれるだろうか。

 お客を喜ばせるのが 旅芸人の本分。
 驚いた笑顔が 何よりの報酬。
 美しい顔には、 晴れやかな笑顔が きっと似合う。

 鹿の子は、 きっぱりと 返事を返した。
「はい、 必ず」


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コメント
420: by ポール・ブリッツ on 2012/08/11 at 18:29:30 (コメント編集)

鹿の子ちゃん、やるな。

しかし、破滅への道を一歩一歩歩んでいるように見えるのはなぜだろう。

わたしが物事を悲観的に考えたがるたちだからですねそうですね(^^;)

421:こんにちは by 星月冬灯 on 2012/08/11 at 19:00:27

とても気になるところで終わってますねww
続きが楽しみです。
色んなジャンルでお話が書けて、すごいですね!

いつも楽しく拝見させてもらってます^^

422:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/08/11 at 19:04:54 (コメント編集)

> しかし、破滅への道を一歩一歩歩んでいるように見えるのはなぜだろう。
ほほう、そう見えますか。
実はこの先は……ごにょごにょ、もごもご。
言えません。

423:Re: こんにちは by しのぶもじずり on 2012/08/11 at 19:17:55 (コメント編集)

星月冬灯様 こんにちは
いつもありがとうございます。

雰囲気が書き分けられているでしょうか。
一応、ヴァリエーションをつけようと考えてはいますが、
「色んなジャンル」と言って頂けると、嬉しくて、励みになります。

これからもどうぞよろしく お願いします。

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