上手く伝わらない伝言ゲーム
あれこれ放談 - 2023年02月09日 (木)
ふとしたきっかけで、ギリシャ神話のピグマリオンを思い出した。
ギリシャのキプロスに才能あふれる彫刻家ピグマリオンが居た。
彼は、精魂込めて女神像を造った。
美の女神アフロディテ(英語ではビーナス)の像である。
ピグマリオンは、自作の女神像に恋をした。
寝ても覚めても寄り添い、愛をささやく。
だが相手は彫像。応えてくれるはずも無い。
ピグマリオンはやつれ果てていった。
それを聞いたアフロディテは哀れに思い、彫像に命を吹き込んだ。
ピグマリオンは動き出した彫像と結ばれ、子孫を為した。
そういう話だ。
究極のフェティシズムだ。
作品は作者の分身とも考えられるから、狂気の自己愛ともいえよう。
いかにも神話である。
試しに<ピグマリオン>で検索してみた。
真っ先に出てきたのは学習塾である。
教育学で、ピグマリオン効果といわれているものがある。
教育者が愛と信頼をもって教育すると、子どもは信頼に応えるように育つ。
そういう理論だ。
褒めて育てるというコンセプトなのだろうと推察する。
次に出てくるのは、バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」だ。
言語学者ヒギンズは友人に力説する。
正確な発音ときれいな言葉遣いを教えれば、どんな人間をも上流階級に見せられる。
「たとえ、薄汚く雑な花売り娘でもね」
薄汚く雑な花売り娘のイライザは、上品な言葉遣いを覚えるべく、ヒギンズに教えを請うことに。
壮絶なスパルタ教育の末、イライザは見事に貴婦人に化けるまでになる。
ヒギンズはイライザに恋をする。
イライザはバッサリと振って、上品な花屋になる。
題名から、ギリシャ神話をヒントに作られたことは間違いない。
だが、話の核が正反対になっている。
女神の彫像は無生物から生まれたてだから純粋で、作者のピグマリオンに従順である。
イライザは薄汚く雑だが、向上心があり努力する人間だ。
教育学のピグマリオン効果は、戯曲の方からの命名だろうと思われる。
愛と信頼が、教育者側の勝手な期待に変化しないことを祈りたい。
さて、戯曲を元にして作られたのが「マイフェアレディ」らしい。
「マイフェアレディ」は、楽しいミュージカル映画である。
衣装は華やかで、曲も楽しい。
「踊りあかそう」「君住む街角で」は、私も歌った。
飲んだくれ親父の歌う「運がよけりゃ」は日本語で歌った。
薄汚い雑な花売り娘もオードリー・ヘップバーンだから、可愛らしく魅力的だ。
ヒギンズとイライザはめでたく結ばれる。
ハッピーエンドのほのぼのラブロマンス。
バーナード・ショーは、厭だろうなあ。そんな気がする。
神話は、概ね話が極端だから、様々な創作のヒントになる。
細部は覚えていないが、ホラー漫画があったような記憶もある。
人形師が作った人形に惚れ込み、人形が勝手に動き出して人形師を翻弄する話だった。
一周回った感じで落ち着く。
そうなのだ。
戯曲「ピグマリオン」・ピグマリオン効果・「マイフェアレディ」
それらは、元がギリシャ神話の<ピグマリオン>だといわれても、もやっとするのだ。
まるで、上手く伝わらない伝言ゲームみたいじゃないか。
肝心なところがずれているような……。

