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くれないの影 第二章――4



「あのう、 男の方なのに 何故袿(うちぎ)を?」

「ああ、 女人になりたくて。
 女人変成(にょにんへんじょう)を願い、
 毎日経を読んでいるのだが、 なかなか成れずにいる」

 鹿の子も 聞いたことはあった。
 変成とは、 徳の高い僧侶が 仏の力で 男を女に、 女を男に 変える術だという。
 行われるのは、 ほとんどが男子変成だ。 しかし…………。
「あれは、 母親の腹の中にいるうちに 願うのではなかったかしら。
 生れ落ちてからでは 無理だと思います」

 紅王丸は 遠い目をして、 ふっとため息をつく。
「そうなのであろうな。
 だが、 他に 姉上をお助けする方法が思いつかぬのだ」

 そもそも 何故閉じ込められているのか不思議だったが、 鹿の子は 怖くて訊けなかった。
「そりゃあ、 こんなに暗くて狭い所に居ては 良い知恵なんか思いつきません。
 お体を動かしていますか」
 紅王丸は かぶりを振る。
「狭い」

「狭くても 出来ることはあります。 曲げたり 伸ばしたり 逆さまになったり……」
「逆さま?」
 鹿の子は 袿を脱ぎ捨て、 袴(はかま)のすそを寄せて 足の間に挟むと、
 逆立ちをして見せた。
 そのまま背を反らせ、 くるりと回って立つ。
 ついでに 宙返りもした。

「すごい」
 紅王丸の瞳が わずかに 光を取り戻したように見えた。
 鹿の子は 嬉しくなって、 おまけに もう一つ宙返りをした。

 見物人に喜んでもらうのが 何より嬉しい。
 領主屋敷に来てからは 叱られてばかりで、 鹿の子のすることを喜んでくれる人は いない。
 久しぶりに 心が騒いだ。

 美しい切れ長の目に見つめられて、 なんだか恥ずかしくなり、 ぷい と視線をはずし、
 改めて 土蔵の中を見回した。
 人一人が暮らすには あまりに殺風景だ。 ほとんど物が無い。

「袿は あるんですね」
 必要なものさえ無さそうなのに、 男の身で 妙なものを持っている。
 思わず呟いた。

「千種にもらったのだ。 長い間見ないが 元気だろうか」
「…………亡くなりました」
 紅王丸は 肩を落として 座り込んだ。

「お親しかったのですね」
「親戚にあたるらしい。 ……少し姉上に似ていた。 病か」
「いいえ、 ……谷に……落ちて……」
「谷に…………」
 それだけ言うと、 後は 黙り込んでしまった。
 話しかけようとしても、 沈んだまま 浮かび上がる気配が無い。

 寿々芽が飛び立ち、 窓から出て行った。
 また謎が増えたが 仕方が無い。
 一人にしてやるしかないのだろうと、 鹿の子は 土蔵を出た。



「わらわが来たことは 他言無用じゃ」
 見張り番に言うと、 簡単に 恐れ入って承知した。
 弟は騙(だま)せなくとも 見張り番の男を騙すくらいは できるらしい。
 ちょっと面白かった。

 軽業を披露したことがきっかけで、 鹿の子は 自分の得意技を思い出した。
 屋敷に連れて来られてから すっかり忘れていたのだ。


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コメント
411: by 十二月一日 晩冬 on 2012/08/10 at 00:24:41

ついでに宙返りww鹿の子パワー全開ですね

変成・・・これは興味深いというか知らなかった。これまた勉強させて貰いました!

412:Re: 十二月一日 晩冬様 by しのぶもじずり on 2012/08/10 at 11:37:34 (コメント編集)

> 変成・・・これは興味深いというか知らなかった。これまた勉強させて貰いました!
昔のお坊さんはいろんな事をしていたみたいですね。
もちろん、ごく一部のお坊さんしか、こんな怪しい事はしなかったみたいですけど。
本当に術が効いたのかどうかも昔は検証できませんし、確率は二分の一。どうなんでしょう。

413:難読漢字にふりがなをお願いします by じゅべ です on 2012/08/10 at 16:19:24

こんにちは
ときどき、しのぶ様の”漢字検定”に目がテンになります(笑)。
’うちかけ’は、自分の辞書にありませんでした。
さあて、次はなにかな?
じゅべ

415:Re: 難読漢字にふりがなをお願いします by しのぶもじずり on 2012/08/10 at 18:08:19 (コメント編集)

じゅべ様 こんにちは
> ときどき、しのぶ様の”漢字検定”に目がテンになります(笑)。
いっけなーい。以前他の方にも指摘されたのに、すぐ忘れる。
ふり仮名をつけるか、なるべくひらがなに開くようにします。

袿(うちぎ)は 「第二章――1」に出したので、完全にうっかりしました。
私は続けて書いていても、読む方は、とぎれとぎれですものね。覚えてませんよね。
以後気をつけます。

「くれないの影」初めから見直して、直しました。
他にも読みにくいところがあったら、また教えてください。お願いします。

710: by 西幻響子 on 2012/10/21 at 08:35:52 (コメント編集)

か、可愛いですねぇ、この鹿の子ちゃん。
西幻はすっかりファンになってしまいました。

しのぶもずりさんの文章って不思議です。
とても容易に、頭に情景が浮かんでくるんです。
私の場合はなんとなく手塚治虫さんの絵を思い浮かべたりしてます。

紅王丸も魅力的。どんな人なのか・・・興味津々です。
でも心配なのが鹿の子の仲間たちのこと。
生きているといいんだけど・・・

あ、リンクはらせていただきます~

712:Re: 西幻響子様 by しのぶもじずり on 2012/10/21 at 10:25:36 (コメント編集)

鹿の子を気に入って下さって、ありがとうございます。
お気楽な最下層民です。
それまでの暮らしと全く違う世界に放り込まれても、この辺りではまだお気楽です。
この先、色々起こります。

私も「ロックンロール・ヘイズ」を面白く読ませて頂いています。
アクションシーンを見習いたいです。
こちらもリンクさせていただきます。

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