FC2ブログ
RSS

くれないの影 第一章――11



 よろめいて くず折れそうになった腕を、 むんずとつかんで 引き寄せた者がいた。

 見知らぬ男に思えたので、 鹿の子は 振りほどこうと暴れたが、
 男は 強くつかんで放さない。
 暴れる鹿の子をもてあまして 当て身で気絶させた。

 すぐ先に 切り立った谷が 口を開けていた。
 男は 千種を追っていた者たちの一人だった。
「見つけたぞ」
 一声仲間に声をかけ、 気を失っている鹿の子を かついだ。



 鹿の子が目を覚ますと、 領主屋敷の部屋だった。
 のどが痛い。
 泣き叫びながら みんなの名前を呼んだせいだ。
 せっかく逃げ出したのに、 簡単に見つかったのも 無理はなかった。 足も痛い。

 障子は開け放たれて、 柔らかな日差しが 手入れの行き届いた庭木に降り注いでいる。
 木の影が長く伸びて、 午後の遅い時間を示していた。
 廊下の端に座っているのは、 見張りを言いつけられた男だ。

 鹿の子は 身を起こした。
 長く気絶していたようだが、 寝ている場合ではない。
 一座のみんなを 探さなくてはならない と思った。

 衣擦れが聞こえて、 現われたのは 土岐野だった。
「夜半に 火が出たようです。
 気づいて駆けつけた者達は、 誰も 逃げ出て来る人間を見ていないとか。
 みな 焼け死んだのであろう」
 前置きも無く、 感情が見えない言い方で 淡々と告げた。

 鹿の子は ただぼんやりと聞き流して、 土岐野が何を言っているのか 理解できないでいた。
 みんなを 探さなくちゃ。
 が、 次の言葉に 凍りついた。
「そなたの戻る場所は もう何処にも無い」

 鹿の子は、 自分の身に降りかかった事態に やっと気が付いた。
 恐ろしいが 事実だった。

 認めたくなどなかったが、 一緒に旅をしてきた仲間たちは もう 誰もいないのだ。
 逃げ出したところで、 行く当てはない。
 見知った土地ならともかく、 初めて来た場所であり、
 なじみの町に出る道すら 分からなかった。

「この屋敷で お屋形様に、 白菊姫さまに 仕えよ。 他に 道は無い。
 今日は ゆっくりと休むが良い。 明日から そなたは お屋形様の影になるのじゃ」

「…………影……」

 土岐野は 言うだけ言うと、 振り向きもせずに 立ち去った。

 しばらくの間 ぼんやりしていた鹿の子は、 のろのろとした動作で、 掛けられていた夜具をはいだ。
 泥だらけだった足が きれいに拭(ぬぐ)われて、 怪我をしていたらしいところに 手当てが施されていた。
 影とは なんだろう。
 自分は どうなるのだろう。
 ふと、 手に握り締めていた物に気づく。 紫苑の簪(かんざし)だった。
 見張りの男に気づかれないように、 さりげなく 夜具に隠した。

 着ていた着物は 戻ってこなかった。
 これも取り上げられないように 隠しておかなくてはならない。

 鹿の子の物は もう 赤い珊瑚の簪しか残っていなかった。


                      第二章につづく


戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
383: by ポール・ブリッツ on 2012/08/05 at 11:17:54 (コメント編集)

復讐譚になるのですか?

どきどきしながら続きを……。

384:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/08/05 at 12:29:47 (コメント編集)

鹿の子は、軽業一座に拾われて育った孤児ですからね。
前作の主人公、ユキアと比べると、ヘタレです。

さて、どうするのでしょうか。
乞う ご期待!  毎度。

424: by ヒロハル on 2012/08/13 at 20:27:59

おおっ、章ごとの読み切りかと思いきや続いていくのですね。
大作の予感。

425:Re: ヒロハル様 by しのぶもじずり on 2012/08/13 at 22:19:48 (コメント編集)

いらっしゃいませ。
えーとぉ。長さは「赤瑪瑙奇譚」と同じくらいになる予定。たぶん。です。
よろしくお付き合いくださいませ。

495: by blackout on 2012/08/30 at 20:48:04

とりあえずここまで読みました

まだまだ、どう転ぶか先が読めませんねw

498:Re: blackout様 by しのぶもじずり on 2012/08/30 at 22:36:24 (コメント編集)

まだ、導入部といったところでしょうか。
これから、あれやこれやと起こります。
この時点で、先を読むのは無理だと思いますよ。

3468: by 椿 on 2016/01/31 at 23:00:49

こちら拝読させていただきました。
ドキドキする始まりですね。
鹿の子は何に巻き込まれたのか、何が始まったのか。

少しずつになりますが、楽しみに読ませていただきますね。

3469:Re: 椿様 by しのぶもじずり on 2016/02/01 at 01:26:56 (コメント編集)

ドキドキしていただけてうれしいです。
鹿の子は思いっきり巻き込まれています。
巻き込まれ主人公ですかね。

過去記事へのコメント、とってもうれしいです。
ありがとうございます。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア