FC2ブログ
RSS

短編  早見先生 (四)


 手を抜き放題の音楽と捕虜生活の話が、二年十三組では馴染みになった。

 ある日、私たちは列車に乗せられ、移動することになった。
 長い移動だった。
 途中の駅で、他の部隊の捕虜が合流した。
 長い長い移動の末に着いたのは、シベリアだった。

 列車を降りてから、さらに徒歩でずいぶんと歩いた。
 その途中で気がついた。
 兵士の男どもに交じって、少数だが男装した女の人が居た。
 逃げる時に襲われないようにだと思う。

 日本人同士だとすぐに気がついた。
 だけど、ロシア人は誰も気がつかない。
 不思議だった。
 男の服を着ていても、
 ちょっとしたときの仕草が、明らかに女の人だった。

 生徒たちも「へー」と言いながら、考えたが、よく分からなかった。
 ざわざわと私語が始まったが、皆、首をひねるばかりだ。
 そのうちの何人かは大人になった時に思いつく。
 「仕草」は、文化なのかもしれないと。


 捕虜収容所に着いたが、シベリアはとにかく寒い。
 収容所の建物は雑な作りで、夜になると、まともに眠れないほど寒い。
 だから、何人かで固まって、抱き合うようにして寝た。
 そうでもしないと、眠っているうちに凍え死ぬ。
 実際に、はじめのうちは、何人か死んだ。
 女の人と抱き合って寝るわけにもいかないので、
 ソ連軍にばれないように、女の人たちだけは、纏めて一緒にした。

 何度も言うが、とにかく寒いんだ。
 どれくらい寒いかというと、そうだなあ。
 小便が、出した側から凍る。

 建物の中に便所が無かった。
 だから、外に穴を掘って板を渡して使った。
 穴は大きく、板はそれなりに長かったから、何人か並んで用を足せる。

 面白いもので、だいたい用を足す場所が決まってくる。
 小便はすぐに凍るから、穴の中に逆さ氷柱(つらら)が出来るんだが、
 穴が大きいにも関わらず、
 逆さ氷柱は、それぞれのお気に入りの場所に、偏って出来るんだ。

 穴がいっぱいになれば、埋めて、新しく掘る。
 いつも、だいたい同じようになる。

 生徒たちが微妙な顔になったところで、終業の鐘が鳴った。


 にほんブログ村 小説ブログへ
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
4468:土も凍って掘るのも大変 by miss.key on 2020/08/05 at 07:49:35 (コメント編集)

シベリアの土を掘ると捕虜の残した○○の逆さつららが出てくる。・・・一万年後、貴重な遺物になるのだろうか(笑

4469:Re: 土も凍って掘るのも大変 by しのぶもじずり on 2020/08/05 at 17:39:06 (コメント編集)

あははは、そんな事があったら面白いですね。
掘り当てた人は、なんだと思うんだろ。

4470: by sado jo on 2020/08/05 at 18:13:57 (コメント編集)

日本人は白人の顔の特徴が掴めないから、外人はみんなアメリカ人だと思ってるらしいですね(笑)
自分は西洋史を学んだせいか、同じ白人でもゲルマン系とか、ラテン系とか、スラブ系の区別が付きます。
言葉のニュアンスで英語、イタリア・スペインなどのラテン語、ロシア・ウクライナなどのスラブ語、フランス語の区別もできます。
ただ何を喋っているのか?それが分からないのが残念ですけどね(笑)

4471:Re: sado jo様 by しのぶもじずり on 2020/08/05 at 18:28:05 (コメント編集)

ラテン系は、わりと分かりやすいんじゃないかと思います。
私も、後はおぼろ〜。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア