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短編  早見先生 (二)



 次の週になって、二年十三組に音楽の時間がやってきた。
 「この後、音楽鑑賞の予定だったんだけど、レコードを忘れました」
 早見教諭は、ぼそぼそとした声で、きっぱりと言い切った。
 「先生、お話、お話」
 「先週の続きー」
 生徒たちは、教科書を閉じた。
 授業をする雰囲気など、すっからかんに無い。


 「終戦の日は知っているか」と教諭。
 「八月十五日。そのくらいは常識だって」
 と生徒たちが口々に言う。

 早見教諭は、ゆっくりと話しだした。

 その日、私たちの部隊は戦闘をしていた。
 突然ソ連軍が侵攻してきて、応戦していた。
 通信が途絶えていたんだろう。終戦になったなんて全然知らなかった。
 八月十五日を過ぎてからも、何日も戦っていた。
 
 こっちと敵の陣地の間には川が流れていて、
 水の補給は、敵味方ともその川しかなかった。
 いつの間にか、暗黙の了解ができて、
 夕方に戦闘が止むと、双方が水を汲みに行った。

 今思えば終戦も近いそんなある日、
 水を汲み行った奴がいきなり撃たれた。
 こっちも負けずに撃った。

 その日から、水を汲むのも命懸けになった。
 援護射撃に助けられながら、バケツを持って走り回った。

 どうしたんだろうと不思議に思った連中が分析した結果、
 ソ連軍に女将校が来た日から、敵の様子が変わったんじゃないかと言いだした。
 言われてみれば、なるほど、その辺りから、
 敵は急に大真面目に戦争をし始めた。
 真面目な女の人は、怖いなあ。

 男子は、どっと笑った。

 そうこうしているうちに、ある日、敵の攻撃がぴたりと止んだ。
 何が起こったのか分からなかった。

 朝から武器も持たずにソ連兵が出てきて、呑気な様子でぶらつき始めた。
 こちらからは丸見えだ。
 攻撃し放題だとも思ったが、敵があまりに無防備過ぎて、わけが分からず撃てなかった。
 混乱しているうちに、
 やっと連絡が取れたのか、敵のソ連軍から聞いたのか、
 戦争が終わったと知る事になったわけだ。

 何日も知らずに戦っていた。
 八月十五日以降に死んだ戦友が何人もいた。

 おバカな中学生は、静かになった。
 授業の終わりを告げる鐘が鳴った。


     つづく


早見先生(一)★

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コメント
4451: by エリアンダー on 2020/07/31 at 22:11:57

音楽と戦争というと「ビルマの竪琴」を思い起こします。
ソ連兵ってどこで戦っても略奪・暴行の代名詞のようなもの。
このソ連兵は例外的に紳士だけど、女性上官が統べると変わってしまう。
映画で見るナチの女性上官も冷たく教条的なことが多い。
女性が上官になってはいけません。(笑)

4453: by ☆バーソ☆ on 2020/08/01 at 10:34:41 (コメント編集)

暗黙の了解ができて休戦状態になった―――。
ヨーロッパ戦線でクリスマス休戦があった話を思い出しましたが、
女将校に邪魔されましたか。
女は怖いですねえ。つくづくそう思います。
しのぶさんの前ですが。(笑)
あ、いやいや、真面目な女は怖いですか。
そうですね。しつこく追いかけられたら怖いでしょう。
と、ここは推量形で書くところが情けないところです。

> 八月十五日以降に死んだ戦友が何人もいた。
急に戦争が怖ろしい話になりました。

戦争は嫌ですね。コビットなんか目じゃないです。
でも侵略されたら男は必死に戦わないと、
女は怖ろしい目に遭うでしょう。
真面目であっても遭うでしょう。

終戦記念日は、天皇が玉音放送をした8月15日ですが、
敗戦日は、戦艦ミズーリ号で無条件降伏の調印した9月2日なんですよね。

4454:Re: エリアンダー様 by しのぶもじずり on 2020/08/01 at 18:39:17 (コメント編集)

私見ですが、女性は総じて戦争が下手なのではないかと。
下手な人に、事を任せるとロクな事にならないように思います。

逆に、男性には、いくさ上手が多い。
上手だと、どんどんその気なって深みにはまる。

どちらにしても、お勧めしたくないですねえ。

4456:Re: ☆バーソ☆様 by しのぶもじずり on 2020/08/01 at 18:56:36 (コメント編集)

コビットとは違って、戦争はやめられるはずだと思うのですが、
始めちゃったら止めるのが大変なのは、同じですね。
やれやれ。
本のPR記事で、見たのですが、ルーズベルト大統領は、戦争をしたくてうずうずしていたという話があるようです。
本当なら怖い話です。

考えれば、戦争を始める前から、米軍が日本の民間輸送船を片っ端から襲っていたというう話もあるので、怪しいぞっと。

4457: by sado jo on 2020/08/01 at 19:01:21 (コメント編集)

戦争文学とは…これはまたガラッと趣を変えましたね。
終戦直前の満州はひどかったそうですね…国民党軍は敗走する日本兵を自軍に編入したり、子供を養父や養母に世話したり、結構日本人に親切だったそうです。
しかし、ソ連軍を満州に引き入れた八路軍(共産党軍)は、日本人の男を捕まえるとソ連軍に引き渡し(シベリア抑留)、女を見つけるとソ連兵に強姦させたそうです。
叔父は徐州にいたので難を逃れましたが、まぁ、今の中国共産党の人権を無視する体質がその頃から出てたんですね><

4458:管理人のみ閲覧できます by on 2020/08/01 at 21:30:16

このコメントは管理人のみ閲覧できます

4459:Re: sado jo 様 by しのぶもじずり on 2020/08/02 at 06:36:10 (コメント編集)

戦争文学というような大層な物ではありません。
これは、とある中学校の音楽教師と生徒たちの物語です。
そのつもりで書いてます。

4460: by ユーアイネットショップ店長うちまる on 2020/08/02 at 07:06:53

コメントありがとうございます。
夜も暑いですね~
昨夜は寝られませんでした。

4461:Re: ユーアイネットショップ店長うちまる様 by しのぶもじずり on 2020/08/02 at 15:04:52 (コメント編集)

ほんにお暑うございますこと。
お体にお気をつけて、お過ごしください。
睡眠不足は、お肌の大敵です。

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